203 軍務卿陣営の崩壊
「貴様らとんでもないことをしてくれたなっ! 私があのあとあの女に何を言われたと思っている!?」
会議室で憤慨するのは軍務卿リットルだ。
ミレオロはエルフの森で起きていた騎士団のクーデターを見逃していなかった。
副長クラスはAランク上位。それが20名を超えるという一大勢力の騎士団の離反はミレオロにとっても大きな問題だ。
だからこそ、この件を騎士団をまとめるはずのリットルに強く問うたのだ。
「団長さんよぉ。規律違反は謹慎。俺にあれだけ言うんだからしっかりやらせてくださいよ」
「ヴェイ……」
「馬鹿なことを言うな! 今ここで戦力を下げさせる余裕などあるか! ここで私が直々に根性を入れ直す!」
リットルの怒声にビクつくのは、ヴェイの一撃を止めた若き才能、ジル。
だが隣に立つビンドと副団長ガルムの堂々たる姿を見て再び顔を上げた。
「とにかく! ミレオロからの指示だ。使えない騎士団のせいでプランが崩れた。Sランクを集めろ、だ。出来るな!? カイエン殿」
「ええ、もちろんですとも。ギルドからは三名のSランク冒険者を……」
得意げに語るカイエンの言葉をリットルが遮る。
「それは当初の数ではないか! 足りんのだ! 十は集めろと言われている」
「十!? 単独でSランクの認定を出せるようなもので、すぐに捕まえられる者など……」
カイエンの意見は至極当然である。
ましてや今回の任務はアンデッドタウンでの戦いといえば聞こえはいいが、辺境伯の後ろ盾を持つ貴族に対する攻撃、その過程で人間を相手にすることも十分考えられる。
その時、ギルドがコントロールできる冒険者でなくては意味がないとなれば、大陸中からかき集めようと十人もの実力者など到底不可能な数なのだ。
「案ずるな。ミレオロの指定した場所に連れて向かわせさえすれば、思想どころか生死も問わんと聞いておる」
ニヤリと笑うリットル。
その言葉を聞きカイエンは頭の中で必死に冒険者たちをリストアップしていく。
リットルの指示満たすためにはもはや、無理矢理Sランク認定を出すことも視野に入れ始めたほどだ。
「ちょうどいい。あの女がどうするつもりか知らんが、この愚かな騎士団員も連れていけば良かろう」
リットルの提案。
ミレオロのこれまでを思えば、おそらく三人の意思に関係なく操れるだけの何かが用意されている。
ガルムはその時点で自害すら決意しかけたところで……。
「お待ちを。あの女は何をしでかすかわかりません。騎士団は冒険者たちと異なり、上が抜ければ統率できた動きを失い弱体化します。ここは私に免じて、この者らの処分はこちらにお任せいただきたい」
団長ベリウスがリットルに告げる。
「なにぃ?」
リットルも面子を潰された手前引き下がる気はないようだったが……。
「ふんっ。まあ良い、次はないと思え!」
「はっ……」
低姿勢な発言からは考えられぬほどのベリウスの圧を受け、リットルは捨て台詞を吐くことしかできなくなっていた。
軍務卿を中心とした勢力の動きは徐々に固まっていきつつあった。
vsミレオロ編もうちょっとで終わりですー
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「田舎者は帰れ!」と追放されそうになったけど、このまま俺が帰るとみんな死ぬけど本当にいい? 〜竜王族に『生殺与奪の権』を握られていることを知らない貴族たちに人類の命運がかかっているそうです〜




