201 エルフの代わり
「チっ!」
ドンと研究所の机を蹴り飛ばすミレオロ。
クエラは怯えながら、メイルは無表情にその様子を見ていた。
「神竜……聞いテないねェ、あんな化け物……」
「それより、呪いを……」
「あァっ!? お前ゴときが神竜の呪いヲ解けるってのカい!?」
ミレオロに怒鳴られてクエラがビクッと縮こまる。
その様子にまた苛立たしげに爪をかみながら、ミレオロが考え込む。
ミレオロがここまで苛立つことも珍しい。
それだけ神竜の存在は大きな誤算だった。
「クソッ……エルフが手に入らなかったドころか余計な置き土産を……」
ベリモラスのもたらした呪い。
ミレオロはそれが確実に己を蝕むものであることは自覚しながらも、その効果さえ判断できずにいた。
それだけ、神竜と自身の間に、大きな差を見せつけられたのだ。
「メイル……あンたは何もないんだネ?」
「ん……。呪いはミレオロにしか影響してない」
「そうカい」
おもむろにミレオロがメイルに近づいていく。
「わかっテるね? 今回のエルフ狩りの目的は」
「ん……」
メイルがうなずいたことに満足気にミレオロが笑う。
「私はねェ。勝てる戦いしかしないのサ」
「知ってる」
「エルフの代わりは……」
クエラがそこでようやくミレオロの意図に気づいて身構える。
エルフ狩り。その目的はエルフの膨大な魔力と生命力を利用した魔道具の制作による、自分たちの戦力補強だった。
それが逆に、殺したエルフを敵であるランドに吸収され、さらに謎の呪いを受けた状況。
ここから勝ちうる方法は、誰かがエルフの代わりになることだけだった。
「私サ。うまくやリな」
「ん……」
「え……」
薄暗かった研究室に光が満ちたかと思うと、次の瞬間にはもう、ミレオロの姿はなくなっていた。
その代わり……。
「ぐ……」
「大丈夫ですか!? メイル……すごい汗ですが……」
「大丈……夫……これが……ミレオロの……」
ミレオロは自身の力をメイルに預ける選択をしたのだ。
呪いの正体がわからない以上、これが最善であると考えて。
もともと身体にこだわりはない。
自分の身体も散々いじくり回してきたミレオロにとって、自分が肉体を捨ててメイルに力を与えることにも、さしたる抵抗は起こらなかったのだ。
「……油断したら、持っていカれる……」
メイルとミレオロの精神は、微妙なバランスの上でせめぎ合いを続ける。
だがその力は、もはや聖女候補と謳われた、大陸でも随一の力をもっていたはずのクエラを持ってしても、計り知れないものになっていた。
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