195 クエラの覚悟【クエラ視点】
「どうして……こうなってしまったんでしょうか……」
私は教会の期待を背負った最高神官として、次期勇者と名高いフェイドさんのパーティーにはいった。
その時はどうしてランドさんが副リーダーなのかもわからなかったし、すぐにロイグさんが実質のリーダーとしてパーティーを動かすようになっていった。
「私は、何か出来たのでしょうか」
最初は順調に思えていた。
フェイドさんは次期勇者の呼び声の通り、その力をメキメキと高めていった。
教会と勇者の関係は深い。
王国の最高戦力として祀り上げる勇者――その箔をつけるのが教会の役割だった。
「魔王もいないこの国の現状を思えば、フェイドさんは良き勇者候補でした……」
そして私もまた、歴代最高などと謳われた聖女候補だった。いやすでに一部で奇跡の聖女などと謳われていることもわかっている。
だが現在は勇者、聖女ともに空席。
それでも国は回っていたのだ。
「所詮お飾りだったということでしょうか……」
現状は誰の目から見ても絶望的だった。
どこでボタンをかけちがえたのかわからない。どこかに戻れるとして、私は何かが出来ただろうか。
「いえ……ダメでしょうね。私では」
もともと聖女候補に祀り上げられるに至るまでも、私は聖女になるための努力をしてきたタイプではない。
たまたま人より多い魔力と、聖属性に対する適正があった。
純粋な才能だった。
その才能を追いかけるようにして、私の中にある種の正義感が生まれた。
教会のため、そこに残された孤児たちのため……。
私が聖女になれば救われる者がいるのなら、そうなろうと、そう思った。ただそれだけで、ここまできた。
「その程度の覚悟で、務まるはずが……」
涙がこぼれる。
だがそんな資格すらもう、失われているようで……。
「ランドさんの脱退を止めるべきだったか、ロイグさんの暴走を止めるべきだったか、そのロイグさんの首を刎ねたフェイドさん……ミレオロと手を組むメイル……」
事態が進むごとに悪くなっていった自分たちの行いを悔やむ。
「ランドさん……」
ランドさんの活躍はもう、耳をふさいでいたって勝手に入ってくるほどのものだ。
辺境伯と大商人に認められ、領地を持つに至っている。
隣に並ぶヴァンパイアだってきっと、人に仇なすものではない。だってそうならきっと、ランドさんが許すはずがないのだ。
「そうか……」
そこでふと気付く。
いつだってロイグさんに引っ張られそうになるフェイドさんをギリギリで食い止めていたのは、ランドさんだった。
「今になって気付いたところで……もう遅いですね……」
そこで部屋に近づいてくる足音に気づく。
「行くよォ。準備シな」
「ミレオロさん……? 一体どこに……」
突然の来訪。
後ろにはメイルの姿があった。
「エルフ狩りサ。あんたラの敵は思ったよりヤるようだからねェ」
心底楽しそうに、ミレオロさんはそう言って笑った。
「エルフ狩りって……」
「魔導具の材料にするダけさ」
平然とそう言ってのける。
そこに悪意などなかった。
ミレオロさんは、呼吸をするように他者を殺す。
私にもできることがまだ、あるかもしれない。
書籍11月16日発売です! 予約受付中!
二巻の表紙はミルムがとても可愛いのでぜひチェックしてみてください!
新作もよろしくおねがいします。
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冷遇されたテイマー王女、崩壊する母国に見切りをつけて自由に〜「役立たず」と蔑んだのに王子が全員使えないから戻って来いと今更言われても、もう魔王とエルフの寵愛を受け使い魔の楽園を作るのに忙しいので遅い〜




