186 領地視察③
「ふむ……一通り見たが、ガルム副団長、感想は?」
「先に情報を知っていたおかげで覚悟はしていたつもりだったのですが……逆にそれが自分の頭に混乱を招いていますね」
「というと?」
「こうも普通に人々が暮らしているのは想定外でした」
「確かに」
そこについてはベリウスも感じていたところだった。
一見すれば生きた人間の街や村と大差がない。
むしろここより人気もなく生きているのか死んでいるのかわからない村などいくらでもあるだろう。
「だが逆に言えば、戦力としては大したことはなさそうか」
「我々が見てきたところだけならばそうですね」
ガルムの懸念は大きく二つ。
一つ目はすでに執事とメイドだけでも規格外のこの領地において、他にもイレギュラーな存在がいないのかという点。
メイドはともかくあの執事のような存在が他にもいるならそれ相応の準備が必要になる。
そして二つ目は……。
「ベリウス団長。アンデッドがいるのは村や街だけだと思いますか?」
「ん? 他にどこにいるというのだ? ここまでの道中、森の中に気配を感じたか?」
「いえ……ですがここにはダンジョンも……」
「馬鹿な。意図的にスタンピードでも起こせると考えているのか?」
「そういうわけでは……」
ありえない想像だとは思っている。
だがもし、こちらの索敵にひっかからないようなダンジョン内部にアンデッドが潜んでいるとすれば、それはもはや戦争を覚悟する必要が出てくる。
「心配する気持ちはわからんでもないが心配のし過ぎも良くはない。確かに城下には軍の真似事をしたアンデッドたちもいたようだが、あの程度はどうとでもなろう」
「やはり軍が……」
ベリウスの自信はこの観察力から来ている部分もある。
ガルムよりも経験が長いベリウスは視察において注視すべきポイントが抑えられる。だからこそ必要以上に恐れる必要がないと判断したのだ。
領地を見渡しても、ベリウスにとっての脅威はあの執事くらいだった。
「案ずるな。所詮アンデッド程度どうとでもなろう」
「はい」
「では、最後に工房とやらも見てから行くか」
ベリウスが信号弾を放つ。
これで調査員たちもあの館の前に一度戻ってくる手はずだ。
「軍の装備は立派でしたが、あれを作っているのでしょうか」
「さてどうだか。私はSランク冒険者が金に物を言わせて買い揃えたのではと考えるが」
「そのほうが自然でしょう」
あれだけ規格を揃えたものを作り出すとなればそれはもはや工場のような設備が必要だ。
そんな設備が過去騎士団がやってきたときにはなかったということを考えれば、答えは自然と絞られる。
だが二人は自分の考えが甘かったことをこのあと痛感する。




