185 領地視察②
「お気遣いいただき感謝いたします。では安心して領内を見て回らせていただきましょう」
『ええ。団長殿と副団長殿はまずは館にご招待させていただいても?』
「いえいえ。主のいない館に勝手にはいるのは忍びない。我々も自由に見て回らせていただきたい」
「失礼ながら、突然の来訪、視察にはどのような意図が?」
アイルが切り込む。
王国最高戦力である王都騎士団の団長と副団長が直々にやってくるのは異例中の異例。
疑問に思うのも当然だった。
答えたのは副団長、ガルムだ。
「アルバル領に起きた悲劇は王都騎士団としても重く受け止めている。その領地が新たな領主を得て動き出したとあっては、我々としても動向は気になる」
その言葉に嘘はない。
ガルムは本心でこの領地のことを思っていた。
そこに団長ベリウスが補足を加える。
「王国内に発生した新たな活動拠点ですからな。辺境伯直々の指名とはいえ、王都としても全く確認せずというわけにはいきません。ですので、この領地がどのような活動をしているのか、今後王国にどのような影響を与えるのかを少し、確認させていただきたかったのですよ」
口元だけをニヤリと釣り上げたベリウス。
その表情にアイルは思わず後ずさりしそうになる。
それだけの迫力がベリウスにはあった。
だがそこで何も言えなくなるほど、アイルも弱くはない。
「わかりました。では自由に見て回っていただければと思います。一つ、難しい職人のいる鍛冶場だけは我々が直接ご案内いたします。そこ以外の視察が終わりましたらお伝え下さい」
「なるほど。ではその鍛冶場を見られるのも楽しみにさせていただくとしましょう」
ベリウスの内心はこの時点では安堵といった状況だった。
王都ギルドマスターカイエンの手回しはうまくいっており、そのおかげで化け物二人の相手はしないで良くなったこと。
戦闘能力の高そうなものが使用人の地位に押し込められており、戦闘に特化した集団ではない分対峙する確率が低くなること。
そして城下に着くまで見た村々において、ロバートやメイドたちのような戦闘能力を有したものは確認されなかったこと。
要するにランド、ミルムと、新たに出てきたロバートさえなんとかなれば、あとは小娘一人と大したことのないアンデッドたちの相手だけで良いということだ。
その程度王都騎士団なら造作もない。ロバートは底が見えないが、それでも隊長格を何人かあてがえば動きを封じる程度はできるだろう。
「この勝負、勝ったな」
小声でガルムに向けてほくそ笑むベリウス。
その様子をガルムは不安げに見つめていた。




