179 神竜殺し
「ふむ……前にここに来たものは確か生きる時間のほとんどを吸い取られていたが……お主らは若く見える……結界が弱まったか?」
神竜が口を開いた。
口調は軽い。
だが決して大きな音ではないというのに、その一言一言が空間を震わせるような重みがある。
「いいえ。結界は今も強固だったわ」
「お前は……そうか。不死の一族……なるほど考えたな」
顔が見えないほどの巨体、見上げてもその表情はわからないが、今の所その声に敵意はなかった。
「そして珍しいな……不死を操るものか……」
「──っ!」
目は見えていない。
だが目があったような錯覚に陥り、思わず背筋が伸びるのを感じた。
「緊張せずとも良い。我はもはや朽ちるのを待つだけの屍、もはやお主にとっては扱いやすい存在ではないか?」
「いやいや……」
「まあ良い。して、何が望みだ? 宝ならば我に納められた財宝ならば好きに持っていくと良い」
「宝はあとでもらうとして、私たちがここに来た理由は、貴方よ」
ミルムが本題を切り出した。
「ほう……?」
「ご覧の通りこの男はアンデッドを操るネクロマンサーというものよ。そして貴方は、もう死を待つだけと言った」
「確かにそう言ったな」
「だったら、その生命を輝ける形で生かしたらどうかしら?」
「面白い。我を殺し、そのものの配下となれということか」
一気に神竜のオーラが増す。
「ぐっ……」
思わず身構えるほどの強烈なプレッシャーを感じたが、ミルムは毅然としてそこに立っていた。
「ふむ……まあ良い。確かにここで座しておっても我に未来はない。であればその人間に未来を預けるのも良かろう」
そうは言うが依然としてプレッシャーは相当なものだった。
だがミルムが言っていたように、全盛期の本気であればこちらは相対しているだけで生命の危機だったわけだから、これでもかなり加減してくれているのかもしれない。
「だが……我が抵抗せずとも、お主らに我を殺す術はあるか?」
「これから試そうと思っていたところよ」
「まあ良かろう。殺せればお主らの要求、呑んでやっても良い。だが我を従えたからと言ってそこにおる獣共のようにお主に付き従いはせん。我の好きに生きるぞ」
その言葉に逆に安心する自分がいた。
こんな相手、もしレイのように擦り寄られてもこちらが身構えざるを得ないからな……。
「人間に迷惑をかけない範囲なら好きにやってくれて良い」
「ならばよかろう。我を殺してみよ」
交渉成立。
あとは……。
「神竜殺し、腕がなるわね」




