170 自信【アイル視点】
「なるほど……お二人は指名依頼が来たと」
「ああ。ぱぱっと済ませるからアイルはロバートとこっちのことを頼みたい」
「わかりました」
屋敷に集まった現在の領地における幹部陣。
ランド殿、ミルム殿、ロバート、そして私。
正直全くこの三人に並ぶ自信はないけれど、私が重要なピースになっていることは理解できる。
『どうやら領地の発展より先に、防衛の準備を進めたほうが良さそうですな』
「そうね。ダンジョンの周回頻度は落としても良いんじゃないかしら」
「そうだな。セラの道具が行き渡りさえすれば止めても良い」
三人の言葉が事態の深刻さを物語る。
「一度現状を整理させて下さい。仮想敵は王都騎士団、ということでよろしいでしょうか」
「王都ギルドも何人かは冒険者を用意するだろうけど、ちょっとこっちは相手が読めないからな」
「魔術協会も同じね」
「つまり最低でも王都騎士団が相手……と」
頭が痛くなる。
二人の感覚ではおそらくそのあたりの魔物の群れと同じ程度なのだ。王都騎士団が相手であっても。
だが私のような一般人からするとまるで話が変わる。
──王都騎士団
国家最高戦力であり他国からも恐れられる最強の騎士団。
団長や幹部陣の実力は皆少なくともSランク。いやこの目で見てきたからこそわかる。あれは並のSランクを超える力を持っていた。
ただの団員ですら各領主の私兵団なら副長クラスにはなれただろうと言われるほどの逸材が集うのだ。
それだけ待遇も、扱いも、何もかもが良い。
そしてそれだけの力を持ちながら厄介なことに、騎士団には貴族らしいしがらみが存在しない。つまり完全な実力主義で成り上がりが可能な場所なのだ。
必然的に国内、いやいっそ国外からも才能が集まるのだ。
「実際私は団長に遊ばれた……」
手も足も出ないとはまさにあのことだった。
ランド殿とミルム殿が軽く何人もの隊長格を相手しているというのに、私は老いた団長になすすべもなかったのだ。
これだけの戦力がもし、二人の留守中に迫ったとしたら……?
考えただけで恐ろしいことだった。
「アイル?」
「あっ……失礼しました!」
いけない。
ただでさえついていけていないのだから集中しなければならないのに……!
『まず領地内の戦力を再度まとめ、こちらも騎士団として本格的に防衛機能を持ちましょう』
ロバートはしっかりしていてランド殿にも頼られている。
羨ましい。
私はいまだになぜここにいられるのかよくわかっていないくらいなのだ。いやもちろん、私がいなければロバートとのつながりもなかったことは理解できる。
ただ、それだけだ。
今の私にどれだけ価値があるかなど……。
「そうしてくれ。で、これはアイルに頼みたい」
「えっ……?」
「俺じゃちょっと、こういうのをまとめるのははっきり言って無理だ。その点アイルなら信用できる」
「貴方意外と適当よね」
「ミルムだってそうだろ」
「良いじゃない? 適材適所で」
そう言ってじゃれあいながらも二人は私に任せてくれる。
「お任せください!」
ならその期待にしっかり応えるだけだ。
「頼りにしてる」
「はいっ!」
例え今、王都騎士団が迫ってきたとしても私たちだけでなんとかしなければならない。
いや、するのだ。
私の目的はこの領地を繁栄させること。
それが防衛すら出来ずに、どうして繁栄などできるというのか。
このときの私はまだ知りもしない。
すでに王都騎士団が動き出していたことなど……。




