86.二章エピローグ
《ルイス視点》
ルイス・スナイプは、ゲータ・ニィガ王国王都近くの森に来ていた。
否……森、【だった】場所へ。
大量の魔物が居着いてしまい、困って【いた】場所。
だが……そこにはもう、何も無かった。
更地になってしまっている場所で、ただ一人、彼女だけが立っている。
「…………」
アウルムからもらった、黄金の杖を手に持つその少女は、マイ・バーンデッド。
化け物直々に、化け物認定された、真の異能。
「魔物を倒せ、という任務だったのでは?」
「……わかってますよ。だから、こうして粉みじんにしたのではありませんか」
「……森ごと消してどうするんですか……」
はぁ、とため息をつくルイス。
マイは特に反省する様子も無く、杖を懐にしまう。
そして、ルイスの隣を歩き、馬車へ向かう。
「次の任務は?」
「獣人国ネログーマに」
「そうじゃなくて、兄さんの、ですよ」
マイは自分の任務ことなどどうでもいいみたいだ。
ルイスはため息をつく。
「シーフくんは、マーキュリーさんの故郷へ行き、しばらく療養と、修業をするそうです」
「………………そっかぁ♡」
マイはうっとりとつぶやく。
「兄さん……わたしのために、強くなろうとしてくれてるんだぁ……♡ うれしいなぁ……♡ えへへ♡」
……この化け物が、ぎりぎり、人の味方をしてくれているのは、兄が居るからだ。
兄が居なければ、こいつはアウルムと同じになる。
「…………」
ルイスは思い出す。
ギルド協会本部からの、命令を。
ギルド協会から下された結論は、マイ・バーンデッドの【抹殺】だった。
この危険な存在を、野放しにはできないと。
正直なところ、ルイスも同意見だった。
しかし、天与の原石の、マーキュリー、そしてギルマスが、それを頑なに拒んだ。
長い議論の末、マイ・バーンデッドを抹殺するのではなく、一旦保留。
観察処分とすることになった。
マイをSランクに昇格させ、危険な任務を任せる。
その最中に落命したら御の字。
化け物を殺すのでは無く、化け物にぶつけ、有効活用する方針にしたようだ。
ルイスはそんな化け物の観察役を押しつけられた。
……正直、マイには近寄りたくなかったが。
しかし他に立候補者がいなかったこと、そして、彼女の本性を理解してる数少ない存在であるおとから、半ば強引にこの役割を任されたのだ。
内心でため息をつく、ルイス。
(シーフくん……早く強くなってください。私には……この子のおもりは、荷が重すぎますよ……)
一方で、マイはうっとりした表情でつぶやく。
「早く強くなってほしいなぁ……♡ 兄さん……♡ 待ってるよぉ、ずっと」
こうして、最強兄妹は一時、離ればなれとなることになった。
兄は妹を守るのために、より強く。
妹は、兄を強くするために、一人に。
思惑は異なれど、願いは同じ。
兄妹で最強となるために、彼らは……別々の道を歩むことにしたのだった。
【☆読者の皆様へ】
これにて2章完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
シーフたちの物語はまだ続きますが、一旦ここで区切らせていただきます。
3章開始は少々お待ちくださいませ。
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