77．反旗を翻す精霊

　敵には急所が１２あることが判明した。

　そして倒すためには、それらを同時に潰す必要がある。

　雷の速度で動けるこの体、そして何より、マイの尋常じゃない目と操作術をあわせれば……可能。

　だが、問題は俺の体が、相手を倒すまで持つかどうかだ。

　神を下ろしてる間、俺の体にはダメージが蓄積される。

　今も結構な時間、下ろしてる状態だ。

　正直もういつ倒れてもおかしくはない。

「兄さん！」

「え？」

　マイが俺の体を動かし、ガード態勢を取る。

　だが……。

「遅い」

　アウルムは錬成を使い、地面から剣を生やす。

　それは俺を攻撃するものではなかった。

　俺とマイをつなぐ鋼糸を、剣で切断。

「しま……！」

「ふん！」

　アウルムが体重の乗った拳を繰り出してくる。

　耳で攻撃タイミングを読んでいたので、ガードはできた。

　だが、ワンテンポ遅れてしまった。

　ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン！

　俺はアウルムの攻撃を受けて吹っ飛ぶ。

　……まずい。今、相手から被弾するのは、非常にまずいのだ。

　ただでさえ、神を下ろしてるだけでダメージが入り続ける。

　そこに加えて、敵の攻撃も加わればどうなるか……？

「がは……！　が、はっ！　がは……！」

　体に力が入らない。

　咳き込むたび血が地面にドバッ、と散布される。

「兄さん……」

　マイが、俺に鋼糸を巻き付けるのを躊躇してるのが、声からわかる。

　

「マイ……俺に気を遣うな……！　早く……接続を……」

「む、無理だよ……兄さんの体……壊れちゃう……」

　アウルムがダンッ！　とツッコんできた。

　俺はダガーを手に……いや。

　ダガーが壊れていた。

　壊れたそれを投げつけ、ひるんだ隙に回避をする。

　だが……。

　ずんっ……！

「がはぁ……！」

　逃げた先に、剣が生えていた。

　俺はまんまと敵の罠にツッコんでしまったようだ。

「頭脳がなければ、ただの木偶だな、貴様は」

　アウルムがこっちに来る。

　まずいまずいまずい……！

　どがんっ！

　アウルムの顔面を銃弾が襲った。

　その隙を突いて、マイが俺の体に鋼糸をまいて、引っ張り上げる。

　ルイスさんが援護射撃をしてくれたようだ。

「兄さん……！　大丈夫！？」

　マイが回復薬を飲ませようとしてくる。

　だが……疲れすぎて、体が飲み物を受け付けない。くそ……。

　ぱぁ……！

「い、イサミ……？」

　人工精霊のイサミが、俺に治癒術をかけてくれた。

「おまえ……どうして……？」

　敵である俺を助けるんだろうか？

『……別に。ただ、あんたが死んだら……嫌だって思っただけ』

　……なんだそりゃ。

　でもこいつの声からは、嘘ついてる感じはしない。

「おまえ、創造主に刃向かうのかよ？」

『……ええ。気づいていない？　あんた……あたしがここにいるのに、アウルムは、こっちを一瞥もしないことに』

　……そういや、そうだな。

　こいつアウルムの仲間だというのに、話しかけてもこないし、見向きもしない。

　やつはずっと、マイと話しかけている。

『……前から、アウルムのことは気に入らなかった。でも……でももう限界！　あたしはあいつの元をさる！』

　どうやら、今までの鬱憤が爆発したようだ。

『あんたに最大の治癒を施す。そんで、あんたの一番強い力で、あの化け物を倒すの！』

「でも……その間の時間を誰が……？」

　ルイスさんが銃を構える。

「私にお任せを。君は……休んで」

　ルイスさん……。

　彼女なら、任せても大丈夫だ。強い人だし。それになにより、はぐれてから今まで、マイを守ってくれた。

　信頼の置ける人だ。

「お願いします」