76.急所12
俺はマイと力を合わせ、アウルムを倒すことになった。
「獣咆哮!」
マイから付与されたスキル、獣咆哮を発動。
アウルムが動きを一瞬止める。
その隙に……。
「水刃!」
ダガーを連続で振るう。
ダガーから飛び出した水刃は、マイの狙い通り、四肢および首を切断しようとする。
「くだらん」
地面がボコォ……! と盛り上り、水の刃を防いでしまう。
「シーフさん、相手は錬成を使います!」
鉱物の形を変える力……だったか。
なるほど、相手は裸足だ。
錬成スキルで地面を変形させ、盾にしたということか。
でも……。
「はは! スキルを使わせてやったぞ!」
やつはさっきまで、素手で戦っていたのだ。
スキルを使わせるまで、やつを追い詰めてるってことだ。
俺の体は素早く動き、土の壁の前にやってくる。
このままでは、また壁に、攻撃を阻まれてしまう。そんなの、俺もマイもわかっている。
「二段刺突!」
女王蜂から習得したスキルだ。
一瞬で二段突きを放つことができる。
びき! と土壁が硬くなったのがわかった。
どうやら錬成スキルで、地面の材質を変えたのだろう。
だが、問題ない。
錬成で、土壁が別の硬い物質に変化するより早く、俺は突きを放った。
しかも、俺が攻撃する場所は、水刃がぶつかった場所。
マイは水刃5連撃が外れることを予期し、壁が出現した瞬間、刃の軌道を変えたのだ。
ドゴォオオオオオオオオオン!
凄まじい破砕音とともに、壁が粉々になる。
俺のダガーはアウルムの心臓を捕らえた。
「やったか!?」
ルイスさんが思わず叫ぶ。
だが、俺にはわかっていた。これで終わりではないと。
その思いがマイにも伝わったのか、彼女は俺の体を操作。
ダガーを手放し、縮地を使って全力で回避する。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
天井が盛り上がり、凄まじい勢いで、巨大な拳による一撃が放たれたのだ。
多分アウルムは錬成を使い、天井の変形。
硬い物質の巨大な腕を作り、俺めがけて、その拳を振り下ろしてきたのだ。
「よくぞ避けたな、小僧。ふむ……吾輩の急所が1つだけではないことに、心音だけで気づいたのだな」
……ちっ。
やはりそうだったか。
「ど、どういうことですか……?」
ルイスさんが困惑してる。
目が良い彼女では、わからないことだろう。
「アウルムには、心臓が9。脳が3つあるんだよ」
「!? そんなに……」
「ああ。しかもそれら全部、体の中で動いてやがる」
どれかが本物で、どれかが偽物……というより、全部が急所なんだ。
一つ潰されても、やつは生きてる。
しかも……。
「俺が今潰した心臓も、徐々に再生してきてる」
「……じゃあ、やつを倒すためには、12の急所を同時に潰す必要がある……?」
ルイスさんからは、信じられないものを見たときの、恐怖心から来る音が聞こえてきた。
だが、マイからそれが感じられない。
マイは……ビビってない。
凄い敵を前に、まったく臆してる様子がない。
なら……俺も諦めない。




