73.通じぬ力
神降ろしした俺の一撃を、迷宮主は軽々避けてきやがった。
「ぜやぁあああああああ!」
俺は神速で、ナイフを振る。
しかしその全てを迷宮主は避けてきやがった。
だが、これは囮だ。
前面からの攻撃を意識させることで……。
俺は一瞬で背後に回り、奪命の一撃を放つ。
「なっ!?」
「くだらん。実に」
俺のナイフを、迷宮主は指で摘まんで止めやがった。
しかも、正面から止めたのではない。
ナイフの背中側から、つまんで、とめてきやがった。
俺の動きを完全に見切ってないとできない芸当だ。
「おまえは、つまらんな」
くるっ、と迷宮主が振り返り、俺の体に、強烈な蹴りを食らわしてきた。
どがぁん!
「ぐあぁああああああああ!」
俺は後ろへと吹っ飛ばされて、壁に激突する。
みし……ばき……と、体から嫌な音がした。
骨が何本かいってしまったようだ。
「げほ……! ごほ……な、んだ……あいつ……神降ろし……してる……俺の体に……ダメージが入る……だと……?」
現在俺は雷の神を下ろしてる状態だ。
この状態だと通常の攻撃が効かないはずだった。
けれど、敵の蹴りが綺麗にきまり、俺の体には、甚大なダメージを受けてしまった。
「シーフさん! 逃げましょう! アウルムは、今の我々だけでは勝てない!」
アウルム……。
あいつの名前か。
たしかに今の俺じゃ……勝てそうにない。
だが……!
「うぉおおおおおおおお!」
俺はダガーを振り上げる。
神の力を、限界まで込める。
「神ノ雷!!!!!!!」
こないだ、敵を一瞬で葬り去った、大技を使う。
室内であろうと、神が雷雲を呼び……。
ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
……アウルムに、神ノ雷が直撃する。
「はぁ~……くだらん。なんて、練度の低い攻撃だ」
「!?」
アウルムが、無傷で立っていた。
なぜだ……いや、わかる。
俺は耳が良い。
だから、やつが攻撃を受ける瞬間、自分の足を地面にツッコんだのがわかった。
「雷を……地中に逃がした……」
「もういい、貴様は、つまらん」
一瞬でアウルムが近づいてきて、俺に強力なパンチを食らわせてくる。
ずがんっ!
「む? ああ、おまえも居たのか……?」
アウルムの拳に、ルイスさんが正確に弾丸をぶち当てた。
弾丸で拳の軌道を変えてなかったら……俺の頭が、アウルムのパンチで、トマトみたいに潰されていただろう。
「はぁ……はぁ……ぐ、あぁあああ!」
助かった。遅まきながらそう自覚した瞬間、体に激しい痛みが走る。
「ぐ……ぁああ……!」
神降ろしの影響だ。
人間という小さな器に、神という大きな力は入りきらないのだ。
「興がそがれたな。死ぬがいい」
アウルムが拳を振り上げる。
ルイスさんがもう一発弾丸を撃ち込もうとするが……。
「邪魔だ」
アウルムが、殺気を込めてにらみつける。
それだけで、ルイスさんは気絶してしまった。
「ルイスさん! がは……く、くそぉ……」
これで援護射撃はもうない。
アウルムには攻撃が当たらない。……万事休すだ。
「神降ろし。たしかに常人からすれば、凄い技術に見えるだろう。だが、その実やってることは、神の化身をその身に下ろしてるだけ。そんな程度の練度の技では、吾輩を殺すことは不可能だ」
練度不足。……わかってる。
宝の持ち腐れだって。
俺は強い力を持ってるだけの、凡人だ。
この力に見合うほどの、強さを、俺自身が身に付けていない。
「残念だ。せめて貴様が、もう少しその力を上手く使いこなせていればな。楽しめたのだが……」
アウルムが拳を振り上げ、そして……。
「死ね」
そのときだった。
ぶんっ……!
すかっ。
……アウルムの拳を、俺が……避けたのだ。
え、で、でもおかしい……。
俺は自分で動けなかった……はず。
「シーフ兄さん!」
後ろに、ひび割れの杖を持ったマイが立っていた。
杖先からは、鋼糸がのびており、それが俺の体にまとわりついていた。
「一緒に戦おう、兄さん! わたしが、兄さんの体を動かす!」
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