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67.兄、生きてる



《シーフSide》


「あれ……ここは……?」


 俺はゆっくり目を開ける。


「おお、目を覚ましたか、少年!」


 見知らぬおっさんが、俺を見下ろしていた。

 ……誰だろう、このおっさん……てゆーか……。


「あ!」


 そうだ。俺、マイ、ルイスさんの三人は、ダンジョンに取り残された人たちを助けにきたんだ。

 だが、途中でマイたちとはぐれてしまった!


 迷宮の主とやらが、マイに興味を持っているらしい。


「マイ!」

「お、おいおい安静にしなきゃだめだろ?」


 おっさんが俺を抱き留める。 

 だが、俺はその腕を振り払う。


「マイのところにいかないと!」


 マイ……。俺の大事な大事な、か弱い妹。

 妹は……か弱い女の子だ。


 兄ちゃんが守ってやらないといけないのに……。

 マイのそばから、片時も、離れちゃいけないのに……!


『おちつきなさいよ』


 ぺんっ、と俺の鼻先を、誰かが蹴った。

「あ? なにすんだよ」


 はしっ。


『いたたたた! 頭を摘まむな!』

「ん? おまえ……」


 ……俺の手の中にには、小さな女がいた。

 虫の翅をはやし、花のドレスをきている。


 妖精のようなフォルム。


「なんだおまえ?」

『イサミよ! いーさーみー!』


 イサミ……。

 あ、人工精霊か。


『まさか忘れてたってんじゃないわよね!?』

「忘れてた」

『きぃ! 自分で名前をつけたくせにー!』


 ジタバタと手足を動かす、イサミ。

 こいつたしか姿見えなかったような気が。


 どうして、今は見えるようになったんだ……?


『あんたの治療に、たくさん魔力を使っちゃったのよ。そのせいで、他人から視認できるランクにまで、力が落ちちゃったのよ』


 ……は?

 俺の……治療……?


「治療? なんで……?」


 意味がわからん。

 こいつ、迷宮の主(※敵)が作った人工精霊。


 つまり……こいつから見れば、俺は敵ってことになる。

 それを助ける? どういう風の吹き回しだ?


「何の意図があって助けた?」

『べ、別に意図なんてないわよ……ただ……ちょっと……可哀想だなっておもっただけよ』


 ぷいっ、とイサミが俺から目を背ける。

『妹を助けようと、頑張ってるあんたが、途中で死んじゃったら……なんか、可愛そうかなって』

「マイが?」


『あんたがよ』


 ……なんで、同情されてるんだろう。

 でも……頑張ってる俺を、認めてくれてるようで、少し……ほんのすこし、嬉しかった。


「助けてくれて、ありがとな、イサミ」

『ふん……。あ、それと治療したのはあたしだけど、ここまで運んできたの、そこのおっさんたちだから』


 振り返ると、おっさんたちがこっちを心配そうに見ている。


「だ、大丈夫かい? さっきからブツブツ独り言言ってるけど……? 頭でもうったのかい?」


 ああ、頭のオカシイやつ扱いになってる……。

 てか、あれ?


「イサミのこと、おっさんたち見えてないの?」

『そうね。ランクが下がったとはいえ、一般人にはあたしは見えないわ』


「俺見えてるんだけど」

『あんたがおかしいのよ』


 まあ、俺もハッキリとこの女の姿が見えてるわけじゃない。

 少し透けて見えてる。


 眼と、そして耳で、こいつの存在を感じているのかもな(視覚を聴覚で補ってるのかも)。


「なんにせよ、ありがとな、おっさんたち。それと……イサミ」


 とりあえず、生きてるみたいだ。

 生きてる……よかった。


 これで、マイを助けることができるぜ。

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