63.壊れないおもちゃ
マイ・バーンデッドと相対する、黄金のアウルム。
ルイスは腕を切り飛ばされた。
……だが、腕から出血が見られなかった。
「あ、ルイスさん大丈夫です。これ、回収しておきました」
「!? わ、私の……腕……?」
マイの手には、先ほどアウルムに切り飛ばされた? はずの腕が握られていた。
いつの間に……。
「ちょっと待っててくださいね。その腕、くっつけちゃいますので」
腕をくっつける!?
何を言ってるのだろう……。
マイがアウルムを見て言う。
「あの、怪我人を治療したいので、ちょっと待っててくれますか?」
……正気か、この子。
相手はこちらを殺す気で来ているのだぞ……?
「構わん。早くしろよ」
だが予想に反して、アウルムはマイの提案に乗ってくれた。
……信じられないことが、次から次へと襲いかかってきて、正直キャパオーバーを起こしていた。
アウルムがマイの提案をのんだのは、それほどまでに、このことの戦いを心待ちにしてるからだろう。
……殺しても死なないような化け物が……。
「うん、治りました」
「!?」
ルイスがアウルムに気を取られてる間、マイがどうやら、治療をしたらしい。
いや……そもそも治療なんてできないはずだ。
マイの職業は付与術師。
治癒術は使えなかったはず。だが……。
「腕が!? う、動く……!?」
信じられなかった。
切断された腕が、見事にくっついてるのだ。
そして、自在に動かせる。まるで、腕が切り飛ばされることなんて、無かったかのように……。
「ほぅ、見事だなマイ・バーンデッド。恐らく貴様は、神経を魔力の糸でつなぎ合わせたのだな」
「!?!?!?」
神経をつなぎ合わせる……だと?
何を言ってるのかさっぱりわからない。
理解できない。でも……。
「わぁ! さすがです、わかってくれるんですねぇ、アウルムさんっ。そうです、鋼糸スキルの糸で、つなぎ合わせました。神経の一本一本を」
「ふむ……無数にある神経と神経をつなぎ合わせるか。はは! 見事じゃないか」
化け物同士が、理解し合ってる。
ルイスは、1歩……後ずさった。
アウルムからではない。
化け物【達】からだ。
「ルイスさん、下がってください。邪魔なので」
マイ・バーンデッドが、こちらを振り返る。
その目が、煌々と輝いていた。
「近くにいると、邪魔なので」
……いつもの気弱な彼女はどこへ行ってしまったのだろう。
言動もどこか、変質してしまっている。
「そのとおりだ、女。もっと下がっておれ。でないと、マイ・バーンデッドが本気を出せぬじゃないか」
敵が、マイに気を遣ってる。
ルイスがうなずいて、壁際まで下がる。
「さぁ……やりましょう、アウルムさん」
「ああ。では、手始めに」
ごごごごごごごご……!
黄金の塊が解けて、粘土のように形を変える。
巨大な黄金の腕が、10本、出現した。
「さぁ、どうする?」
ドドドドドドドっ!
黄金の巨大腕が素早く動いて、マイに連打を浴びせようとする。
バララッ……!
「あはは! なぁんですかそれぇ……? 全然面白くないですよぉ」
黄金の腕が、一瞬で消えたのだ。
マイの手には、職人に作ってもらった杖が握られている。
ルイスは、驚愕した。
眼鏡を外して、視力を回復させ、ようやく……彼らの戦いを、かろうじて視認できた。
(マイさんは……敵に襲われる一瞬、まず敵の動きを遅延の光で一瞬……ほんの刹那の時間遅くした。その間に、マイさんは杖先から鋼糸を出し、それを自在に操って、腕をバラバラにした……)
ひゅんひゅんひゅん、とマイの周りを、鋼糸が生き物のように動いてる。
鋼糸スキルは扱いがかなり難しい。
見えにくいし、下手したら自分が罠にひっかかってしまう。
切れ味もかなり良いので、すぱっ、と人体が切れてしまうこともある。
……そんな危険なスキルを、マイは手足のように操っていた。
「じゃあ今度はこっちが!」
ズァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
大量の鋼糸が杖先から吐き出される。
ただ、射出されるだけじゃない。
その鋼糸、1本1本、その全てが、まるで蛇のように動く。
鋼糸は目で捕らえにくい。
それが、ハッキリと見える。それくらい大量の鋼糸が吐き出され、1本1本操られているのだ。
鋼糸の波がアウルムの体を、一瞬で細切れにする。
だが……。
「やるな、マイ・バーンデッド!」
バラバラになった体が、どろり……と溶ける。
液体になったアウルムが、空中で人間の形へと戻った。
「あははは! すごいすごい! あなた凄いです! 全力で遊んでも、壊れない……!」
マイが、笑っていた。
いつも兄にむけてる無邪気な笑みと同じはずなのだが……。
ルイスには、悪魔の笑みに見えてしかたなかった。
「わたし……ずぅっとほしかったんだぁ……」
何が欲しかったんだろう。
「兄さんはね、わたしに何でもくれた。何でもしてくれた。でも……これだけは、くれなかったの」
それは……。
「絶対に壊れない、玩具♡」
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