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60.夢



 夢だ。

 俺は、夢を見ている。


    ★


 ……雨だ。

 雨が、降っている。


 ザァアアアアアアアアアア……!


 土砂降りの雨の中、俺は……俺だけが立っている。

 焼け焦げた建物。


 炭化した村人。

 ……父さんだったもの、母さんだったモノが、転がっている。


『とう……さん……かあさん……』


 どうしてこうなったのか。

 村に、盗賊団が突然やってきたのだ。


 やつらは村に火を放ち、混乱に乗じて、村にある金目の物を奪っていった。


 ……俺ひとりだけ、助かった。

 母さんが、土蔵の地下に、俺を隠してくれたからだ。


『盗賊の……せいだ。盗賊のせいで……あいつらが……俺の大事なモノを奪っていったんだ……』


    ★


 暗転。

 気づけば、俺は大きな都市に流れ着いていた。


 どこの村も、俺を拾ってはくれなかった。

 俺の職業ジョブが盗賊のせいだ。


 俺の村を襲った盗賊連中は、ここら辺一体で悪さを働いてるらしい。

 だから、なおのこと、盗賊の職業ジョブ持ちに対しては、みな警戒してる様子だった。


 ……俺は何もわるいことしていないのに。

 盗賊の職業ジョブというだけで、誰もが俺を迫害する。


 誰もが俺を、悪者扱いする。

 ……俺は何度も、悪の道に落ちそうになった。


 盗賊のスキル、強奪スティールを使えば、どんなモノも盗むことができる。

 ……でも俺は、強奪スキルを決して使わなかった。


 俺から大事なものを奪った、くそったれな連中と、同じ力を使いたくなかったから。


 あのクソ野郎どもと、俺は違う。

 そう主張しても、周りの俺(盗賊の職業ジョブ持ち)への風当たりは強かった。


 誰からも受け入れてもらえず、誰からも冷たくされて……。

 俺はすっかり、やさぐれていた。


    ★


 暗転。

 ……俺は、街の一角で、倒れていた。

 金も食い物もない俺は、ゴミあさりをして生きていた。


 でも……ゴミから得られる栄養なんてたかがしれている。

 俺は栄養失調をおこし、1歩も動けないでいた。


『だれか……たす……けて……』


 俺は手を伸ばす。

 その手を……誰かがふわりと、握った。

『だい、じょうぶ……ですか?』


 目の前に、天使のように美しい少女がいた。

 彼女は怯えながら、けれど、俺の手をしっかりと掴んでいた。


 声からわかる、俺を、本気で心配しているってことが。

 こんな俺を、見ず知らずのガキを……。

 それに、心臓の音から、この子が人見知りであることもわかった。

 知らない人に話しかけるのが、怖いって、心臓の鼓動が俺に伝えてくる。


 ……けれど、彼女は勇気を振り絞ってまで、俺に手を差し伸べてくれた。

 ……嬉しかった。


 今まで、家族以外で俺の手を握って、優しく抱き留めてくれたやつはひとりも居なかったんだ。

 だから……その子が、マイが……手を差し伸べてくれたのが嬉しかった。


    ★

 

 マイ。

 おまえは俺の命の恩人だ。


 おまえが、俺を闇から救い出してくれたんだ。

 マイ……。俺は絶対におまえを助ける。


 あの日、おまえが助けてくれたように。

 俺も……絶対……必ず……

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹だけど妹じゃなかったのか。 とりあえず嫁に出す心配はしなくていいな!
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