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58.vsさまよう鎧



 ……俺は休まず、遺跡の中を駆け抜けていた。

 体からは悲鳴が聞こえてくる。


 体は休息を取れ、と言ってくる。

 だが、おれはそれをガン無視した。


 休んでいる間に、マイやルイスさんが、危ない目に会っているかもしれない。

 俺のやるべきは、いち早くマイたちのもとへたどり着くことだ。


 と。


 ガシャッ。


「! 敵か……ぜえ……はあ……」


 敵が、待ち構えている。

 しかもかなりの強敵である音が聞こえてきてる。。


【あ、あんた大丈夫なの……? もう結構ヘロヘロだけど……】


 人工精霊イサミが、気遣わしげにそう言ってくる。

 妙なやつだ。


 声からは、ホントに心配してるのがわかった。

 敵だって言うのにな。


「黙ってろ」

【なにさ! 人が心配してやってんのにー! きー!】


 人じゃねえだろ……とか、なんで心配してるんだこいつ……とか。

 色々言いたいことはあれど、言う余裕がなかった。


 体力的にも、そして、精神的にも。

 がしゃんがしゃん、という足音から伝わってくる、強者の音。


 そして、俺の苦手な相手であることが、わかった。

 隠れてやり過ごすか……?


 だがここは一本道だ。

 見付かってしまうだろう。というか、もう敵に見付かっている音がする。


 足音に迷いがないというか、真っ直ぐに、余裕たっぷりに、こっちにやってきてる。

 

「ふぅ……はぁ……ふぅ……」


 今の俺にできるのは、息を整えることくらいか。

 マイのサポートがない今、さて、どこまでやれるだろうか。


【私の出番は、まーだー?】


 ……神のアホの声は無視しておく。

 使うことによる反動がデカいし、なにより、あまり多用したくないからな、この技。


「GI……GAGA……GI……」

「さまよう鎧……か」


 さまよう鎧。

 鎧型のモンスターだ。


 だがこいつの厄介なところは、肉体がないこと。

 弱点は存在する。


 が、弱点を突くためには、鎧を突破しないとならない。


「GIGI……GA……」


 さまよう鎧は、腰に刀(極東発祥の、妙な形をした片手剣)をさしている。


 鎧が両腕を広げ、待ち構える態勢だ。


「ふぅ……はぁ……!!!!!!」


 俺はダガーに付与された、雷速、そして俺の持つ縮地。

 二つのスキルを発動させる。


 限界を突破したスピードで……。


「うぉおおおおおおおおおお!」


 さまよう鎧の……。

 股下をくぐり抜ける。


【ちょ!? 戦わないの!?】


 戦わない。

 真正面から挑んでも、勝てない相手であることは、音からわかっていた。

 


 敵の虚を突いた。

 よし、このまま逃げ……。


 だが、俺の耳はやつの動きを正確に捉えた。

 さまよう鎧は、刀を抜いて、尋常じゃない速さで切りつけてきた!


 俺は、前を向いたまま……かがむ。

 スパンッ……!


 ……俺の首があったところを、刀が通り過ぎていった。

 しゃがんでいなかったら、首と胴体が綺麗に両断されていたことだろう。


 振り返って、首を落とされていた。

 耳の良い俺だから、音だけで敵の動きを把握できる俺だからこそ、やつの一撃をよけれたのだ。


【や、やば……あの居合抜きをよけるとか……どんな反射神経してるのよ】


 反射神経というか、耳が良いからよけれたのだが……。

 シーフに答える余裕は、ない。


 なるほど……あいつは、かなり厄介な敵だ。

 どうやら居合いの達人らしい。


 近づけば居合いの餌食。

 遠くから攻撃する手段は俺にはない。


 また、弱点は鎧に覆われている。

 おまけに俺は万全のコンディションではない。


 そして、マイのサポートがない。

 ……かなり、ヤバい状況。


 しかし俺は、戦うことを諦めない。

 なぜなら……お兄ちゃんだからだ。


 マイを守るために、こいつが邪魔だ。

 なら……その命、奪わせてもらおう。

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