50.不可能を可能にする妹
セーフゾーンにて。
救助者たちを外に出したあと……。
「で、この石碑どうする? なんか凄い文字なんでしょ?」
どうやらこの世界には存在しない、神の文字ってやつらしい。
そもそもここに調査に来た連中は、こういう未知のお宝を発見するために、来たわけだ。
となると、この文字の書かれた石碑は、彼らにとって喉から手が出るほど欲しいものとなる。
「紙に書き写し、専門家に情報提供しましょう。そして、その人名義で、神の文字として発表する。そうすれば、シーフさんに負担が掛からないかと」
なるほど。
俺の名義だと、冒険者としての活動を阻害されかねないからな。
ルイスさんが魔法カバンから紙とペンを取り出す。
そして紙に文字を書き写そうとするも……。
「!?」
「どうしたの?」
「文字を……書き写せない……」
「え?」
ルイスさんがペンを走らせる。
しかし、紙の上に文字が描かれないのだ。
【一般人に、神の文字は取り扱えないよ。専門の職業持ちじゃないとね】
……なるほど。
神の文字を取り扱えるやつは、限られてるのか。
盗賊、付与術師も取り扱えなかった。
「書き写せないってなると……石碑を回収する感じ?」
「ですね……。ただ、迷宮の壁はとても強固です」
ルイスさんが魔法弾を、壁めがけて発射する。
がきぃん!
銃弾は弾かれ、壁はへこみすらない。
「シーフさんの奪命の一撃では?」
「無理。壁を完璧に壊すことはできるかもだけど、それじゃ意味ないでしょ」
俺の奪命の一撃は強力だが、しかし【強力すぎる】という弱点を持つ。
加減ができないのだ。
生命を持つ者なら即死させ、無生物は破壊してしまう。
「シーフ兄さん。わたしに……任せてっ」
「マイ」
いつもより、積極的にマイが話してる。
なにか……変わったのだろうか。
「どうするんだ?」
「魔導人形から採取したスキル、【錬成】を使うの」
錬成……?
「鉱物の形態を変えるスキルですね。ただ、扱いにはかなりの修練が必要となります」
スキルを得たばかりの俺では、扱いきれないってことか。
するとマイが「任せてっ」という。
「スキル付与【錬成】!」
瞬間、俺のダガーが淡く光り輝く。
「兄さん。それで壁を切って」
「これで……?」
弾丸を弾くほどの硬度の壁を?
ダガーで切れる……?
いや、マイが切れるというのだ。
できるに決まってる。
俺はダガーを迷宮に壁に突き刺す。
手に衝撃が走る……はずだった。
さくっ!
「おお! すげえ! クッキーみたいに簡単に壊れるぞ!」
俺はサクサクと石碑の部分だけ、壁を切り取る。
どどんぅ……!
石碑が地面に墜ちる。
「マイ! これどうやったんだ?」
「えと……錬成を、ダガーの刃だけに付与したの。壁にダガーが刺さった瞬間、錬成が発動し、壁を構成する分子を移動させ、切り取りやすくしたの」
何を言ってるのかさっぱりだけど、マイがスゲえってことだけはわかった!
……って、ん?
ルイスさんから、また驚愕してる音が聞こえるぞ……?
「どうしたの?」
「……マイさん。それは、規格外です」
それ?
どれ……?
「マイさんは今、デバフとバフ、同時にかけております」
「? どういうこと?」
「錬成は、相手の硬度を下げる……つまり、デバフ効果を持つスキルです。それを、シーフさんに付与した。デバフとバフは両立しない、その原則を……彼女は限定的ですが、打ち破って見せたのです」
これも何言ってるのかわからんが……。
そういや、師匠が言っていた。
バフとデバフは同時にかけられないって。
マイは今、それをやってのけてる……ってことか!?
「す、すげえぞマイ! どうしちゃったんだよ! いつもすげえけど、今日は特にすげえじゃん!」
マイが照れくさそうに言う。
「なんか今日、凄く……調子が良いの!」
さっきの時間停止の部屋を見てから、調子が良いみたいだ。
良い物を見て刺激を受けたのかな……?
「なんにせよ、マイは凄い!」
「えへへ……♡ でもまだ、バフデバフの両立、完全に掴んだわけじゃないから……」
「それでも、すごいよ! 誰にもできないことやってのけたんだから!」
「えっへへ~♡ 兄さんほめすぎだよぅ~♡」
……しかし、マイ。
おまえはドンドン進化していくな。
兄ちゃんを……置いて。
【神を受け入れればもっと強くなれるよ?】
……無視。
人間を捨てるつもりはない。
マイが人の身で、ここまで強くなってるんだ。
俺だけズルするわけにはいかないんだよね。
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