40.ムノッカス視点 3
《ムノッカスSide》
カスワンとカスツールが出て行ったあと……。
ムノッカスは取り巻き二人とともに、馬車を護衛することになった。
「へ、へんっ! 砂蟲がなんだ! ぼ、僕はすごいんだ……どんな敵が出てこようと、一瞬でやっつけてやるんだよぉお!」
と、意気込むムノッカス。
ガラガラ……と竜車が奥へと進んでいく。
「ねえムノッカス。なんか変じゃない?」
「変? なにがだよ」
取り巻き女のヒッチがそういう。
「なんか……全然魔物に出くわさないっていうか」
「! そういや……人外魔境入ってから、ずっと敵が出てこねえな」
ここへ来てしばらく立つが、一度も敵とエンカウントしていないのである。
恐ろしいほど、旅程は順調であった。
先頭で竜車を御する商人クローニンは、心の底から安堵していた。
やはり彼は、ムノッカスの力に対して、懐疑的であったからだ。
一方雇い主から信頼を落としてるとはつゆ知らず、ムノッカスは言う。
「ま、ラッキーってこったな」
まあ実際に、ムノッカスはラッキーだった。
彼がここまで敵と遭遇しなかったのは、ひとえに、シーフが砂蟲を狩りまくっていたから。
もっといえば、技能宝珠を使った商売を思いついたからだ。
普段の彼であれば、最低限の敵を倒すだけで、余計な戦闘は全て回避していた。
今回が、本当に運が良かったのだ。ムノッカスにとって。
……しかし。
「日頃の行いがいいからかなぁ! わっはっは!」
等とのたまうムノッカス。
竜車は荒野を進んでいく。
「もうすぐ円卓山につくぞ!」
目的である円卓山が目前に迫っていた。
ムノッカスが窓から顔を出すと……。
「おお、デカい……」
見上げるほどの巨大な岩山が、そこにはあった。
あれが円卓山。
ムノッカスは安堵の息を内心でつく。失敗しなくて良かったと。
まあそれを表に出すと、非常にダサいと周り(取り巻き)から思われてしまうので、黙っておくことにするが。
「ふぅ、やれやれ。僕が本気を出すまでもなく、目的地にたどり着いてしまいそうだねえ。わはっはっは!」
と、そのときだった。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「うぉおお!?」
「なんだ!?」
「砂蟲だぁ!」
竜車の進む先に、巨大な化け物が突如として、地中から這い出てきたのだ。
砂蟲である。
「急停止しろ!」
竜車がクローニンの命令で止まる。
彼の指揮がなければ、今頃、竜車は全滅していた。
「ムノッカス! 任せたぞ!」
「え、え……ええ!」
ばっ! とムノッカスは窓から身を翻す。
取り巻き女達も。
ムノッカスは敵を見上げて……思わず身体を震わせてしまった。
「な……んだ……よこれ……なんだよ……このばけもの……」
「GIGIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!」
大気を震わす、咆哮。
地竜たちはパニックになり、どこかへと逃げていく。
だが砂蟲はそれを逃がさない。
恐ろしい速度で荒野を移動し、頭から地竜を丸呑みしてしまう。
「む、むのっかすぅ~……やばいよぉ……」
「あんなの……かてっこないよぉ……」
取り巻き2名はすっかり戦意喪失しているようだ。
仕方ないことだ、敵は巨大、かつ、見るもおぞましい見た目をしてる。
ミミズのような、イソギンチャクのような、気色の悪い顔面を見るだけで怖気がする。
「う、う、うおぉおおおおおおお!」
ムノッカスは己を鼓舞し、剣を抜いて突っ込む。
「僕は最強なんだぁ! 僕の剣術を、みさらせえええええええええええええ!」
ムノッカスは叫びながら砂蟲に突っ込んでいく。
適当に、砂蟲の外皮にむかって剣を振るった……。
かつーん……。
「はえ……?」
だが、ムノッカスの一撃を受けても、砂蟲の外皮には傷一つ着けられなかった。
「そんな……ぶげえええええええええええええええええ!」
砂蟲が突進してきた。
ばきぼき……と骨が折れる音がする。
ムノッカスは空中へとほうりなげられ、地面に無様に倒れる。
「いってえええ……いってよおぉお……うえええええん……いたよぉおー……」
情けなく涙を流すムノッカス。
それを目の当たりにしたクローニンは、頭を抱えた。
「目的地はすぐそこだというのに……もう終わりだ……」
「GIIGIIIIIIIIIIIIII!」
砂蟲の咆哮。
誰もが、死を覚悟した……そのときだった。
シュンッ……!
ばららららっ……!
「「「え……?」」」
信じられない出来事が起きた。
砂蟲が一瞬にして、バラバラの死体に変わったのである。
まるで、鋭利な【なにか】で身体をぶつ切りにされたような。
「な、なんだ……一体何が……?」
「おい、砂蟲の上に誰かいるぞ!?」
死体となった砂蟲の上にたたずむ、黒髪の少年に、ムノッカスは見覚えがあった。
あの黒髪、そしてマフラー。
「し、シーフ!?」
そう……シーフ・バーンデッド。
その後には巨大な獣。そして獣の上には……。
「ま、マイぃい!?」
そう、バーンデッド兄妹が、自分たちを助けたのである。
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