13.ドロップ品を見せて驚愕させる
ほどなくして。
俺は、マイたちとともに王都へと戻ってきたのだが……。
「うぉ!? なんだありゃ……」
「でけえ……」
「従魔か、ありゃ……?」
王都の人たちの視線がこちらに集まってくる。
皆の注目は俺たち……というか。
背後を歩く、デカいオレンジ色の毛皮をした、フェンリルだ。
馬鹿でかいもんが歩いてるんだ。そりゃ、目立つ。
「なんで伝説の神獣がこんなとこに?」
「街を一瞬で滅ぼしたことがあるって聞いたことあるぞ?」
「まじで!?」
「でも暴れていないってことは……やっぱりあの坊主の従魔なのか?」
あーあー、聞こえてくるよ、噂話しが。
超聴覚をオフにしてても、ひそひそ声が聞こえてくる。
目立つのは嫌いなんだが……。
「おまえさ、フェンリル」
『なんだ我が主?』
「なんでそのデカい姿なの? 人間になれるんだろ?」
そのくせに、馬鹿でかい犬の格好してやがる。
自分から目立つようにしてるとしか思えない。
ふふん、とフェンリルが誇らしげに鼻を鳴らす。
『人の姿になるのは、主を誘惑するためじゃ』
「はぁ……?」
『主の子を孕むためには人の姿でなければならぬ。が、人の姿というのは窮屈でな。我はこの方が楽なのじゃ』
……わからんが、さっき人の姿になったのは、無理してその姿に変化したらしい。
犬の姿のほうが楽なんだと。
正直、この犬を連れてくる義理はなかった。
別に俺は犬なんて欲しいとは一ミリも思っていないし、こいつを助けたのも、マイをこいつが殺さなかったから情けをかけただけだ。
が、なぜ連れているかというと……。
「ふわわぁ~……♡ フェンリルさん、もふもふぅ~♡」
マイが最高に可愛い(結論)。
マイがフェンリルの背中に乗っている。
そして、もふもふ……と頬ずりしてるのだ。
……そう、我が妹は無類の犬好きなのである!
特に大きくて毛皮がふわっふわしてる犬が好きだ。
で、この炎神フェンリルは、マイの好みドンピシャリ。
俺がこの犬をおいてこうとしたら、マイがわがままを言ってきたのだ。
『シーフ兄さん……この子、飼いたいっ!』
ってな。
妹におねだりされちゃ、断れないよな。
ということで、フェンリルを連れていくことにした次第。
「もふもふ~♡」
『主の妹君よ。おぬしのおかげで主のそばにいられる。礼を言うのじゃ。名をなんと申す?』
「マイ・バーンデッドです! あなたは?」
『名はない。主に付けてほしいのだが……』
名前、名前ねえ……。
飼いたいのはどっちかっていうと、妹だしな。
それに妹に名前を決めさせた方が、マイは喜ぶだろう。
「妹よ、決めてやれ」
「いいのぉ! わーい! シーフ兄さんありがとぉ!」
マイの笑顔……プライスレス!
「じゃあ……えと、【フェン】ちゃん……」
『ふむ……フェン……か。どう思う主? なぁ?』
どう思うだって?
「最高じゃん、フェン」
『おお! そうか最高か! じゃあフェンでいいぞ!』
妹が決めた名前だぜ?
いいに決まってんだろ。
妹が名付けるなら、たとえ【犬山わんわん犬太郎】とかでも、全然ありだね。
「君たちのんきね……」
隣をずっと黙って歩いていたマーキュリーさんが、疲れ切ったような声で言う。
「マーキュリーさん? ナンデ疲れてんだよ」
「誰のせいだとぉ~……はぁ~~……」
まあわからんが、オバさんなので疲れがたまりやすいんだろうな。
ややあって。
俺たちは天与の原石へと帰ってきた。
「あ、あのっ。マーキュリーさん。フェンちゃん……連れてったら、ギルメンさんたち凄く驚いちゃうんじゃ……?」
宇宙一優しいマイが、そんな風に、ギルメンへの配慮を見せる。
神。
「大丈夫よ、マイちゃん。フェンリルくらいじゃ、天与のギルメンは驚かないわ」
マーキュリーさんが前をスタスタ歩いて行く。
特に彼女が嘘を言ってる声はしていなかった。(くせになってんだよね、相手が嘘ついてないかって探るのがさ)
その後を、俺、マイ、フェンと続く……。
「わ! シーフくん! マイちゃん! おかえり~!」
俺たちを最初に出迎えてくれたのは、マーズさんだ。
さて……彼女はというと……。
「わ! すご……! フェンリルだ! 赤毛だから、亜種かなぁ~?」
マーズさんがフェンに近づいて、じろじろと毛皮を見たり、もふもふと触ったりする。
マーキュリーさんの言うとおり、驚いてる感じはしない。
「てかどうしたの?」
「ああ、この犬っころは……」
「じゃなくて!」
マーズさんが声に怒気、そして……心配の色を混ぜながら言う。
「こんなに遅くなるなんて、聞いてないんだけどなっ」
「「え……?」」
「もうっ。ただの薬草拾いだから、直ぐ帰ってくるだろうと思ったらぜーんぜん帰ってこないんだもん! お姉ちゃんちょー心配したんだからねっ!」
……不思議な、音がした。
怒ってるのは間違いない。でもそれは、俺たちを叱りつけたいからでは決して無かった。
純粋に、俺たちの身を案じてくれていた。
「……す、すんません」「ごめんなさい……」
俺とマイが謝ると、マーズさんはニッ、と笑って、俺たちの頭をなでる。
「まっ、無事で何よりっ! まm……」「マーズぅ?」
「んんっ、マーキュリーさんも無事でよかった!」
マーズさん……割といい人だよな。
面倒見もいいし。
マイも「お、お姉ちゃん……」とか言ってる。
ずっと兄ちゃんっ子だったからな。姉に憧れてるんだろう。
「おお! 新人、帰ってきた!」
「大丈夫だったかぁ? ケガしてないかぁ?」
他のギルメンたちも集まってきた。
みな、俺たちを気遣ってくれている音がした。
……優しい人って、いるところには、いるんだぁ。
……こんなあったけえところに、妹を連れてこれて、ほんと良かった。
「はいはい、みんなどいて。シーフくんたちがクエストの報告するからね」
マーキュリーさんがそういうと、皆さんがどいてくれる。
奥のカウンターへとやってきた俺たち。
「じゃ、シーフくんたち、クエストで得たもの、お姉ちゃんに見せて!」
もうすっかりマーズさん、俺たちのお姉ちゃんを気取っていた。
マイは「うん、お姉ちゃんっ」と言ってる。まあ、いいけどな!
「じゃ薬草と……」
「ふんふん」
「黒猪の肉と毛皮と……」
「ふんふん……ん?」
「大鬼のツノと爪」
「んんぅううう!? し、シーフくん!?」
ぎょっ、とマーズさんが目を剥いてる。
「き、君たち……たしか薬草拾いクエストに行ってきたんじゃなかったの?」
「うん。けど途中で魔物に絡まれてさ。で、倒してきたんだ」
こくんこくん、とマイが俺の後でうなずく。かわよ。
「なるほどねえ……そりゃ災難だった。良く無事で帰ってきたよぉ! 偉い!」
マイが嬉しそうにふにゃふにゃ笑っていて、最高に俺はハッピーだった。
「じゃあ換金していこう……!」
マーズさんが片眼鏡を取り出す。
鑑定の魔道具だろう。
「えっと……最初に薬草を調べて……っとぉ? おっ! 上質な薬草だね!」
マーズさんは薬草を一房手にとって言う。
「こいつは上質な薬草だ! 高く売れるよ。で、こっちも……お! こっちも上質な薬草! へえ……こんな連発して取れるものじゃないのに……あれ? これも……」
マーズさんの顔に、どんどんと汗が浮かぶ。
「あ、あれぇ? おかしいなぁ。全部、上質な薬草なんですけどぉ~?」
マーズさんがとても困惑していた。
「え、なんで? 上質な薬草って入手ランクBだよ? 少なくとも王都にこんなたくさん自生してるポイントなんて……無かったよね、マーキュリーさん?」
するとマーキュリーさんがため息交じりに言う。
「そうね。でもね、マーズ。このシーフくん……完全解体スキル持ちなのよ」
「え、え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
さっきまでマーキュリーさんが驚き係だったのに、今度は、マーズさんが大声を出していた。
「かかか、完全解体!? 特級エクストラスキルの!? す、す、すっごーい!」
確か修得に400年分くらいの修行が必要なスキル、なんだっけか。
「なるほど、じゃあこの上質な薬草なのも、うなずけるね!」
「どういうことなの、マーズさん?」
「完全解体スキルはね、文字通り、完全な状態で物を解体できるスキルなの」
つまりどういうことだ?
「生き物って死ぬと腐っていくでしょ? それと同様に、物ってドンドンと劣化していくの」
たとえば、とマーズさんが上質な薬草を手に取る。
「この薬草も切り取るとその瞬間から、劣化が始まるの。でもね、シーフくんの完全解体スキルがあれば、薬草を劣化させず、新鮮な状態で回収することができるの!」
どうやら完全解体スキルは、品質を向上させる効果もあるようだ。
ただ、技能宝珠を回収するだけの、便利スキルじゃないんだなぁ。
「この黒猪の毛皮もそう! こんな綺麗な毛皮はじめてみた! これも高く売れるよ!」
「綺麗なのこれ?」
「うん! だって毛皮って剥ぐの大変だし、そもそも倒す段階で魔物の体を傷つけるからね。毛皮はどうしてもぐちゃってなりがちなの」
そうか、完全解体を持った状態で相手を殺せば、アイテムがドロップする。
でもスキルが無い状態で倒したら、自分で素材となるアイテムを回収(剥ぐ)必要があるのか。
で、完全解体があれば劣化せずにアイテムを回収できると。
「さてお次は大鬼の素材……って、ええええええ!? うそぉおおおおおおおおおお!?」
マーズさんも結構リアクション大きいよな。
マーキュリーさん同様。やっぱり親子だから?
マーズさんが手に取ったのは、長い1本の鬼の角。
「大鬼のツノでしょ?」
「よく見てこれ! ここに線が入ってるでしょ?」
……確かに、根元のほうに線が入っていた。
剣のように、根元をつかんで、マーズさんが引き抜く。
そこには、クリスタルのようにまばゆく輝く、刃があった。
「大鬼丸だよ!」
「なにそれ……?」
「大鬼のツノから作られる、超レアな特別な武器!」
「武器ぃ?」
ミノタウロスからも、牛頭包丁を落としてなかったか?
ん? でもあれは元々ミノタウロスが持っていた品物だったし……。
大鬼の大鬼丸は、そんな刀持ってなかったぞ?
「完全解体スキルの効果でしょうね」
「ママ! ……あいたっ」
マーキュリーさんがマーズさんの頭を叩く。
やっぱ母親なのかこの人……。
「エクストラスキルにはわかっていない部分も多い。多分だけど、完全解体スキルの効果で、ドロップした素材が武器に進化したのね」
「そんなことあり得るのママ!? あいたぁ!」
マーキュリーさんがまたマーズさんの頭を叩く。
別に叩く必要なくないか?
「完全解体は、ドロップアイテムのレアリティを極限まで高める力があるのね。その結果、アイテムも職業みたいに、進化した……って感じかしら」
「すごいすごいすごーい! アイテム進化させちゃうなんて! シーフくんすっごいねー!」
よしよしよし、とマーズさんが頭をなでてくる。
子供扱いされるのはちょっと気恥ずかしかった。
でも……嬉しかった。
俺が褒められたことじゃないぞ?
「兄さんが……いっぱいほめてもらえてる! うれしい!」
俺が評価されたことで、マイが嬉しそうにしていた。
そのことが、何より嬉しかったね。
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少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「兄さんもまた有能!」
と思っていただけましたら、
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