108.
「見事ですね」
不意に、背後から凛とした声が掛かった。
俺がハッとして振り返ると、そこにはいつの間にか師匠――リリアが立っていた。
拍手も、賞賛の笑みもない。
ただ静かな瞳で、俺と、砂になった岩の跡を見つめていた。
「師匠……。いつからそこに?」
「最初からですよ」
「嘘をつけ。気配なんて全くなかったぞ」
俺の聴覚は、風の音すら逃さない。
リリアが近づいてくれば、足音や心音で気づいたはずだ。
「近くにはいませんでしたから。遠くから『視』ていました」
「……はぁ? 屋敷からここまで、数キロはあるんだぞ?」
俺が呆れると、リリアはさも当然のように首を傾げた。
「ええ。ですが、視えるものです。意識を飛ばせば、風のざわめき一つまで手に取るように」
「……」
化け物か、この人は。
俺はようやく一つのスキルを掴んだというのに、この師匠は遥か高みから俺を見下ろしている。
底が見えない。
「ですが、まだ遅い」
リリアは冷徹に告げると、スッと地面に手を置いた。
ズズズズズズッ……!
大地が鳴動する。
俺の足元が揺れ、地面からボコボコと何かが隆起してきた。
岩だ。
さっき俺が崩壊させたものと同じ材質、同じ大きさの岩塊が、まるで雨後の筍のように次々と生えてくる。
十、二十……いや、五十はあるか。
あっという間に、岩の森が出来上がった。
「なっ……」
「今の貴方は、壊す前に対象の音を『聞こう』と意識しましたね? 集中し、狙いを定め、それから触れた」
「そりゃそうだろ。急所を探さなきゃならねえんだから」
「実戦では、そのコンマ数秒の隙が命取りになります」
リリアが立ち上がり、無数の岩を指し示した。
「いちいち耳を澄ませていてはダメです。触れた瞬間、無意識に『終わりの音』を聞き分け、崩壊させなさい。呼吸をするように、瞬きをするように」
「無意識に、だと……?」
無茶苦茶を言う。
物質の崩壊点を探るなんて精密作業を、オートマチックでやれというのか。
「できますか?」
リリアの問いかけに、俺は口元を歪めた。
できない、とは言わない。
妹を守るためだ。最強になるためだ。
ここで足踏みしている暇はない。
「……上等だ」
俺はボキボキと指を鳴らし、岩の群れへと向き直る。
「やってやろうじゃねえか。全部、砂に変えてやるよ」
俺は迷うことなく、最初の一つに向かって駆け出した。
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※2/2(月)
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