107.
俺の手が、岩の表面に触れる。
力を込めて叩き割るのではない。
ただ、「死」という概念を、対象に浸透させるイメージ。
俺の耳は、物質の弱い部分を聞き分けられる。
その中でも特に弱い、最も脆い場所の音。
俺はこれまでの修行を通して、そして女神のアドバイスを耳に入れたことで理解した。
ここだ、と思った場所に手を置く。
ヌッ、と。
俺の手が、まるで水面に触れたかのように、岩の中に沈んでいく感覚があった。
ドゴォッ! という破壊音はしなかった。
代わりに聞こえたのは、もっと静かで、それでいて恐ろしい音だ。
サラサラサラ。
俺の目の前にあった巨大な岩塊が、音もなく崩れ落ちていく。
ひび割れたのではない。
砕け散ったのでもない。
岩を構成していた結合が解け、ただの砂の山へと還ったのだ。
「な……」
俺は自分の手を見る。
傷一つない。痛みもない。
ただ触れただけで、硬度を持った物質を、塵へと変えてしまった。
『うん、お見事!』
頭の中に、インドラの声が響く。
どこか誇らしげな、満足そうな響きだ。
『物質における「死」とは、即ち「崩壊」であり「風化」よ。形あるものはいずれ壊れ、土へと還る。シーフの奪命は、そのプロセスを極限まで早め、強制的に「終わり」を与えたの』
「終わりを、与える……」
なるほど。
生物なら心臓を止める。
無機物なら、形を保つ力を奪う。
それが、このスキルの真の姿だったのか。
足元の砂山を見下ろす。
これは破壊力じゃない。もっと根源的な、強制力だ。
「……ありがとな、インドラ」
俺は短く礼を言った。
以前の俺なら、こんな素直な言葉は出なかっただろう。
俺は最強で、妹以外は全員敵で、神の言葉なんて胡散臭い戯言だと切り捨てていたはずだ。
だが、耳を傾けた結果がこれだ。
俺一人では決して辿り着けなかった境地に、今、立っている。
『ふふん、礼には及ばないわっ。あんたが強くなってもらわねば、あたしも困るからねー!』
インドラは照れ隠しのようにプイッと顔を背け、ふんすと鼻を鳴らす。
その仕草に合わせて、彼女の長い髪がふわりと揺れた。
俺は拳を握りしめる。
この力があれば、どんな敵が来ようとも――例えそれが、生物でなくとも殺せる。
妹を守るための最強の矛が、今ここで完成したのだ。
【おしらせ】
※1/30(金)
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