第十二話 伝説に名を残す者
こんばんは。第一部最終話です。
魔王は滅び、人として生まれ変わった!
世界に光は戻り大団円、かと思いきや!
王は渋面! そりゃそうだ!
勇者一行は幸せな結末にたどり着けるのか!
それでは第十二話「伝説に名を残す者」お楽しみください。
「……以上が昨日魔王城で起こった出来事の顛末、です……」
「……」
フーリの説明が終わった。
王は無言。
場を気まずい緊張が包む。
「……その、つまり、魔王は赤ん坊のために消滅したが、女神様のお力で人になった、と?」
「えぇ、まぁ、そういう事、です……」
王の確認に、フーリは生きた心地がしない。
もし王に信じさせられなければ、魔王と赤ん坊がどうなるか、その不安が身体を震えさせる。
「……」
「信じられないかも知れないですけど、本当なんです……!」
キュアリの真摯な言葉にも、王の渋面は崩れない。
「……やはり城に捕らわれていた人と言った方が良かったのではないか……?」
「魔王には身元を証明するものが何もない。下手にごまかせば私達も国と対立する事になりかねない」
フーリの小声の問いに、ナクルは首を横に振る。
ここまで来たら真実と誠意で押し切るしかないのだ。
「……魔、王?」
「うむ」
「人となられたようだが、今後魔族はどうなるのか?」
「側近の魔弟にまとめさせ、城で静かに暮らさせる。光が戻った今、勝ち目のない戦いを起こす愚か者はいない」
「ふむ……」
堂々と言う魔王に、王の動揺も収まった。
人と魔族の長としての会談の様相に変わり始める。
「各地の魔物はどうされるおつもりかな?」
「蘇った光を浴びれば、闇の影響は消え、じきに元の動植物に戻る」
「それは有り難い。では肝心な事を伺おう」
王の目が鋭く光る。
「何故人を滅ぼそうと?」
生半可な弁明やその場凌ぎの言い訳は通じない圧力。
「魔族は人を滅ぼそうとした事はない」
「何……?」
「人間は我々の糧となる絶望を吐き出す生き物。滅しては我々も飢えて滅びる」
「糧、だと……」
「ま、魔王さん……!」
慌てるキュアリをミライトが無言で制する。
そこには魔王への確かな信頼と、それでも駄目なら国と事を構えても構わない、という覚悟があった。
「……確かに魔族によって命を落としたものは、直接手向かった者だけだな。だがあれだけ人間を恐怖に陥れておきながら、人間になったから許せ、と?」
「許しは乞わない。憎んでも恨んでも構わない。ただ、人のその感情がより集まって闇と夜の精霊だった私を絡め取り、魔族に、そして魔王にした」
「……恨めばまた新たな魔王が生まれる、のか?」
「可能性はある」
王は息を止め、しばらくして大きく吐いた。
「……分かった。今国民も光が戻った歓喜の中にある。今なら恨みを捨てよと言っても抵抗は少ないだろう」
「ありがとうございます!」
王の言葉に、勇者一行の表情が緩んだ。
「して魔王ご自身は今後どうされるおつもりか?」
「先の話通り、私は昨日滅びた。後に望みは何もない。……ただ願わくば……」
「まー」
「この子と共に生きたい……」
「……」
再び渋面に戻る王。
「お、お願いします!」
「どうか魔王とこの子の生活を認めてください!」
「この国を去れと言うならそれも構わない」
「ただ、共に生きることだけは認めてください! もし勇者としての褒美をもらえるなら、それに代えてください……!」
「……」
考え込む王。それ以上重ねる言葉を持たず、沈黙する勇者一行。
「私からもお願いー。じゃないと加護切っちゃうぞ☆」
「め、女神様! 黙っていてくださいと言ったじゃないですか!」
女神とキュアリの言葉に、王がびくりと震える。
ずっと勇者一行の後ろで光りながらにこにこしている美女。
勇者一行が紹介もしないし、まるでないもののように扱うので、幻を見るほど疲れているのかと不安になっていたのだ。
「……えっと、あの方本当に……?」
小声で尋ねる王に、ミライトは沈痛な面持ちで頷く。
「……女神様です……」
「……えー……」
「気持ちは分かる」
ナクルの言葉に女神と王以外が頷く。
「……やはり認められない」
「そんなっ!」
「魔王と赤ん坊だけにするのは危険だ」
「だから魔王はもう人になって、人間に危害を及ぼす事なんて……!」
「そう、人となってまだ僅かでは、人として生きる術はまだ得ていないのだろう?」
「……! 確かに二人だけでは危険」
「心許せる仲間が生きる術を伝えるまでは認めない、良いな?」
「つまり俺らが一緒なら……!」
「城下に家を用意しよう」
「ひゅー☆ 話が分かるー☆」
「……ど、どうも」
喜び合う勇者一行。
かたや王もこっそりと胸を撫で下ろしていた。
人になったとは言え魔王は魔王。
城下に住まわせたくはないが放逐も怖い。
しかしそこに勇者がいれば脅威は薄れる。
それに国として女神の加護を失う訳にはいかない。
威厳を保ちつつ導き出した最善の答え。
王もまた緊張の中、綱を渡り切ったのだ。
「これでまた一緒だ赤ん坊」
「まー! ぁぶぅ!」
魔王の喜びを感じてか、赤ん坊も満面の笑みをこぼす。
「あ、そしたら名前つけてやらないとな」
「……紙をもて。……うむ、ではこの名を」
王が紙に記した名を全員の前に広げる。
「あの、これは?」
「確かこの国で救国の英雄に与えられる称号……」
「その通り」
キュアリに応えたフーリの言葉に、王は頷く。
「確かに魔王の脅威を無くしたのはこの子」
「我に異存はない」
「よし、じゃあお前は今日から……」
だがその名は、後のこの国の歴史には残ってはいない。
魔王の脅威は完全に消えた。
赤ん坊が大きくなっても、英雄になる機会はない。
英雄とは危機にあって輝くものだからだ。
伝説は始まらない。
少し多めの、ちょっと変わった家族の中で育っただけの平凡な人の名を、歴史は刻まないのだ。
「レイだ!」
「あーい!」
そして幸福は始まった……!
読了ありがとうございます。
シリアス「……貴様何故……?」
何も死ぬこたぁねぇ。そう思っただけだよ。
という訳で第一部完! お疲れ様でした。
かつてSSで書いた時は、『あの名前』をもらって『そして伝説は始まった……!』で締めましたが、平和になった世の中に、そんな伝説もいらないかな、と。
ビビってるのもありますが。
レイはまんま光線のレイです。男女どちらでも読める名前と、二文字にしたかったので。
そしてまたまた四月咲 香月様にキャラ絵を頂きました!
いつもいつもありがとうございます!
フーリの防御力が心配。
さてこの後は後日譚になります。
人によっては吐血したり嫉妬の波動に目覚めたりしますので、自己責任でお願いします。
ここで引き返すのも勇気。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます!
覚悟完了の方はまた明日。




