第十話 最期の抱っこ
おはようございます。
魔王の危機の理由は赤ん坊の生命力だった!
しかし赤ん坊は魔王を求める!
このまま魔王は滅びてしまうのか!
そして赤ん坊の未来は!
それでは第十話「最期の抱っこ」お楽しみください。
「……以上よ……」
「……そっか」
フーリの説明を聞いたミライトは、気が抜けた声でそう呟いた。
「まぁ……、まぁ……」
「よーしよし、もうちょっと俺のとこにいてなー」
泣き疲れながらも魔王を求める赤ん坊。
その背中を撫でてあやしながら、ミライトは魔王に確認する。
「……こいつを抱っこしてたら、滅びるって事か」
「……あぁ」
魔王の返事に、バツが悪そうに頭を掻くミライト。
「……何か悪かったな。ちゃんと戦ってやれなくて」
「私とて魔王の責より赤ん坊を優先したのだ。責められはしない」
笑う魔王の顔は、憑き物が落ちたように穏やかだった。
「まぁ……」
「さぁ来い赤ん坊よ」
腕を広げる魔王に、ミライトは赤ん坊を渡そうとして、ためらう。
「……本当にいいのか? 魔族の今後とか、さ……」
「あぁ、魔族の後の事は魔弟に書き置きを残した。あやつなら残った魔族をまとめ上げられるだろう」
「弔い合戦とかしないだろうな?」
冗談混じりで問うミライトに、魔王は首を横に振る。
「赤ん坊に力も闘争心もほとんど削られているからな。心配ない」
「そっか。……じゃ、行ってこい」
「まー! まー!」
「……あぁ、暖かいな」
「まー!」
やっと望んだ腕の中に抱かれて、安心し切った顔をする赤ん坊。
「……」
ミライトは膝をついて、魔王の腕の下に手を広げる。
「……勇者よ、何のつもりだ?」
「もし消えちまっても下で受け止めるからさ。存分に抱っこしろよ」
「……感謝する」
「ぁーぶぅ……」
側から見れば、勇者が魔王にかしずく光景。
だがそれを責める者は誰一人としていなかった。
「……女神」
「なーに?」
「此奴を勇者に選んでくれた事、感謝する」
「人を見る目はあるからねー」
「素直に流石だと思うよ」
笑った魔王の角の先端から、黒い煙になって空中に散り始めた。
「魔王さん!」
「身体が……!」
「……」
「魔王!」
「ふむ、いよいよ、か……」
魔王は赤ん坊から顔を上げる。
「賢者フーリ」
「えっ、な、何だ!?」
「貴様の料理、魔族の身ゆえ味こそ分からなかったが、工夫を凝らしたいいものだと思った。悪くないものだな、料理というものも」
「まっ魔王に誉められたって……、ありがとう……」
照れと涙を堪え、顔を真っ赤にするフーリ。
「僧侶キュアリ」
「……」
「貴様がめげずに声をかけてくれたおかげで、赤ん坊も大分人に慣れたようだ。感謝する」
「……ぁぃ……」
堪え切れず涙をこぼすキュアリ。
「武闘家ナクル」
「何」
「貴様の冷静さと分析力には助けられた。ありがとう。ただ自分の感情まで抑えすぎるなよ」
「考えておく」
表情を変えず、しかし密かに奥歯を噛み締めるナクル。
「勇者ミライト」
「……おう」
「……頼んだ」
「……任せろ……!」
決意と覚悟を込めて頷くミライト。
「女神」
「待ってましたー」
「帰れ」
「ひどーい」
「そして人を、勇者達を、いつまでも見守ってくれ」
「言われるまでもないですよーだ」
ブレない女神。
「……赤ん坊」
「まー!」
「名の一つも付けてやれずにすまなかったな」
「ぅきゃーぅ!」
魔王の言葉に笑顔で答える赤ん坊。
これからもずっと一緒にいる事を疑いもしない笑顔。
「幸せに、な」
「ぅ?」
魔王の身体が全て煙になり、赤ん坊はミライトの腕の中に落ちた。
「……!」
「……まぁ?」
ミライトに抱きしめられながら、赤ん坊は魔王のいた中空に手を伸ばした。
読了ありがとうございます。
赤ん坊の気持ちを落ち着かせるツボは、背中にあります。
抱っこした状態で背中に手を当てて、指だけでとんとんと一定のリズムで刺激すると、不安泣きは結構収まります。
昔テレビで、スプーンの背で背中を撫でると良い、というのもやっていました。
勿論ミルクやおしめの時はどうしようもありませんが、眠いとかお母さんのトイレ待ち抱っこの時などは結構重宝します。
寝かしつける時は、少しずつとんとんのペースを落とすとなお良いです。
次話もよろしくお願いいたします。




