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隻眼隻腕の魔女と少年  作者: 麻酔
第四章
30/44

魔女の誘導

楽しんで頂けましたら幸いです。

「──さて、どうだい?」

 作業、という一言では収まらない規模の事を()し終えたヴェルデが得意気に、カンザキに向けてそう訊いてきた。カンザキは眼下に広がる開かれた地面を見て、改めてヴェルデの凄さを実感した。

 あれから場所は移って──カンザキたちはヴェルデの山小屋から数キロほど離れた森林地帯の岩場に居た。所々に灰色の岩場が見え隠れするその森は、今も昔も人の手つかずであるようだったが──しかし今は──ヴェルデの魔法により、そこにあった緑が地面だけを残して全て消え去っている。

 濃緑にぽっかりと空いた穴。

 そんな様相を呈したその光景は、そこにあるべきものを無くしたような悲壮感があった。

「……後で『友達』にお礼を言いたい光景だ」

 罪悪感を吐露(とろ)するようにカンザキが言うとヴェルデは微笑(ほほえ)んで「そうするといい」と言った。

「では、私たちはここにいるから」

 そういってヴェルデはその場に腰を下ろす。その直前にネーロ(獣姿)が素早くそこに伏せたのは流石だった。その後ろに立っていたフジノとヴァイスにも声を掛けようとカンザキが二人を見ると、二人は各々に手を振ったり頷いたりして静かに送り出す合図をくれた。

「……行こうか」

 リンフを(うなが)しながらカンザキは身軽な動きで岩場を降りた。


 ・

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 ・

 ・

 ・


 そこに着くと、カンザキはリンフと共に開かれたその場の中心に立った。所々(えぐ)れているが──これはヴェルデが『魔法』で『友達』を移動させたからだった。彼らは今、湖の上で待機浮遊してもらっている。

「……手を」

 向き合う形で位置取りをし、(さそ)うように片方しかない(てのひら)を差し出すと、リンフは小さく頷いてカンザキの手にその手を重ねた。己の手に重ねられたリンフの手を見たカンザキはその大きさに、目の前に居る少年の成長を実感して、思わず口元が(ゆる)んでしまった。

「カンザキさん?」

 怪訝に思ったのか、リンフが窺うようにカンザキの顔を見る。

「いや、何でもない」

 軽く首を振ってそう答えたが、心中ではリンフの成長に思いを()せていた。

 成長したのは身体だけではない。ここ最近、そう思っていた──そう感じていたカンザキ。ちょくちょくと大人びた様子も見せるリンフに戸惑いを覚えたこともあったのだ。中身も──精神も成長しつつあるのだろうな、と感慨(かんがい)深く思いながらカンザキは片方しかない目を(つむ)り深呼吸をした。それから目を開けてリンフを正面から見()える。

 本当に大きくなった。

「身体の力を抜いてくれ。そうだな……瞑想(めいそう)するときみたいにでいい」

 武術と一緒に教えた瞑想を例えに出すと、リンフは頷いて目を閉じた。リンフの身体から余計な力が抜けていくのが分かった。

「それじゃあ、そのままで、な……」

 カンザキも目を閉じて集中する。

 触れ合っている手を(はし)(わた)しにするイメージで、己の()をリンフの氣に同調させていき──そこからゆっくりと意識をリンフの中心部に寄せていく。すると、(かす)かに『魔力』の気配を感じた。さらに寄せていくとその気配は強くなっていく。次に、己の氣に己の『魔力』を乗せていく。これには違和感があったのかリンフがぴくりと身体を震わせたが、反応らしき反応はそれだけであったのでカンザキは続けた。近づくにつれだんだんと強くなるリンフの『魔力』の気配。やがて、その『魔力』の大元(おおもと)らしき濃い気配に辿(たど)り着いた。カンザキは少しの間を置いてから己の『魔力』をゆっくりとそれに近づけた。

 寝ている子供をそっと優しく起こすように──カンザキの『魔力』が……リンフの『魔力』に触れる。

 と。

 リンフの『魔力』が(わず)かに揺れ始めた。

 ゆらゆらと粒子(りゅうし)が舞うような──あるいは──()もっていた煙が放たれるような感覚が……イメージが、カンザキにもたらされる。それは(ほど)けるように広がっていき……リンフの身体を満たした。

 カンザキは己の氣と『魔力』をリンフの身体からゆっくりと引き揚げ、己の身体に収めた。

 ほぅ、とカンザキは(いき)()き目を開ける。

 リンフは、と顔を上げると、リンフは目を閉じたままでいた。

「……目ぇ開けていいぞ」

 カンザキが言うと、リンフはゆっくりと(まぶた)を開けて、(いま)だ触れ合ったままの手に視線を落とした。

「……大丈夫か?」

 そう声を掛けながらリンフの様子を窺っていると、リンフはカンザキに視線を移して、「これが……『魔力』……」と小さく呟いた。身体に行き渡った『魔力』を感じているのだろう。

「どんな感じだ?」

 感想を聞いてみるとリンフは己の身体を確かめるように見た。

「身体の奥にあった何かが全身に染み渡ったような……満たされてる感じ……がする」

「そうか。初めてやったが……無事に済んだようだな」

 リンフから返ってきた感想を聞いてカンザキは安心した。

 魔女の研究データ。

 そこに残されていた内容に、被験者からの聞き取りの記録があったのだが、そこには『魔力』が『喚起』される前と後での差違(さい)有無(うむ)についての項目で、被験者の(ほとん)どがリンフと同じような答えを返していたことが記録されていた。しかも、そのように答えた者は割と安定して『魔力』を使えたようだ。

 カンザキはそのデータが安心材料の一つになったことを複雑に思った。

「あとはこれをコントロール……使えるようにならねーとな」

 言って、気を引き締めるように、ぐっ、と触れたままの手を握ると、リンフも頷いて握り返してきた。

 不意に、手を引かれる。

「!」

 驚いている間にはリンフに抱きしめられていた。

「カンザキさん、ありがとう」

 リンフが感謝の言葉を口にする。

 カンザキは驚いた表情から優しく笑って、空いた手でリンフの背中を優しく叩いた。

「おう。一緒に頑張ろうな」

 お互いが後悔しないためにもな──と心の中で付け加えながら、カンザキがこれからのことを話そうとリンフから離れかけたとき。

 視界の端に黒い(もや)が見えた。

 ぎょっとしてそれを二度見する。続けて周囲に視線を巡らすと、黒い(もや)はあちらこちらの木々の間から二人のところへ伸びてきているようだった。

 リンフもこれに気付いて驚いたようで、警戒するようにそれらを見回した。

 カンザキも身構えたものの、うねうねとうねるだけのそれに害意や敵意を感じないことに気付いた。

「……?……」

 何なんだこれは、と思いながら辺りに目をやっている内に、ふと、視界に入った足下からもそれが伸びているのが見えた。それを見てカンザキはその正体に気付いた。

 黒い靄は足下の影から伸びていたのだ。

 改めて周囲の森を見()る。

 やはり、伸びてきたそれは木の陰から出てきていた。

 それを確認したカンザキは──とあることを確信した。

「リンフ」

 身構えた緊張を解いてカンザキはリンフに呼びかける。

「? カンザキさん?」

 リンフが怪訝な目でカンザキを見る。

 カンザキはその目をじっと見返して言う。


「どうやらお前の『魔力』は、『影』と相性がいいらしい」

読んでいただきましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴェルデさんの『お友達』、浮いてたんですね! リンフ君の『喚起』も無事に終わって、良かったです。 リンフ君の魔力は、影と相性がいいんですねぇ! なんだかカッコイイですね!
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