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054「カノコ、神頼みする」

 木村くんからOKが出て、撮影は昼前に終了したが、それだけでは終わらなかった。


「あぁ、そういえば、この先にありましたね」

「おー、苦しい時の神頼みって奴だな。いいじゃん。行って来なよ」

「トウマくんは僕たちが見てますから、どうぞ行ってきてください」

「ありがとう、木村くん。――良い子にしててね、トウマくん」

「はーい。タカシおにいさんと、まってるね」

「俺も数に入れてくれよ! ナチュラルにスルーされてて、発狂しそう」


 岡本公園から更に川沿いに北へ上がると、岡本八幡神社に辿り着く。かなり高台にあるため、結構な坂道と石段を登らなければならないが、こじんまりした落ち着きのある神社で、鳥居をくぐると、得も言われぬ神聖なパワーを感じる。心なしか、空気も澄んでいて、涼しい風が肌に優しく吹き付けてくる。

 私鉄沿線には、寺社仏閣が多い。そもそも参拝者のために敷設された路線もあるくらいだから、当然といえば当然なのだろう。この岡本八幡神社の他にも、周囲には保久良神社や素戔嗚神社といった名立たる神社が存在する。

 撮影を終えたのだから、さっさと帰れば良いと思うかもしれないが、私は、せっかく岡本公園まで来たのだからと、この神社に無事を祈ってから帰ることにしたのだ。トウマくんたちは、近くの天上川公園で待ってもらっている。

 

「ついた~。よしっ」


 手水を終えた私は、一対の狛犬の間を通り、縄を揺らして鈴を鳴らし、賽銭箱に五円玉を投げ入れ、柏手を打って一礼した。

 マナーと違うかもしれないが、真心を込めて感謝の意を表するのが参拝のメインだろうから、できれば細かな点は目を瞑ってほしい。異論は認める。

 参拝を終え、鳥居をくぐって俗域に戻ると、天上川公園へと急いだ。


「タカシおにいさん、うんてい、できる?」

「どうだろう。届くには届くけど、持ち手が熱いから無理かな」

「よーし。レオナおにいさんが、お手本を見せてやろう。ウワッチャー!」


 私が目撃したのは、ジャンプしてうんていに掴まったが、ものの二秒で手を離した黒田くんと、それを「だから言わんこっちゃない」という冷たい目で見る木村くんとトウマくんの姿だった。いいところを見せようとして、かえって醜態を晒してしまうカッコ悪さは、中学時代からちっとも変って無いなぁ。良いように捉えれば、少年の心を持ち続けていると言えなくも無いけど、冷静に考えて進歩が無いと見るほうが正しいだろう。


「そういえば、梅野って、どこ卒だっけ? 高校? 大学?」

「トノサマバッタという名前ですが」

「あぁ、あの専門学校か」

「そういう黒田くんは、どこなのよ?」

「俺が大学へ受かるような頭脳をしてるように見えるか?」

「高卒なのね」

「そこは、噓でも見えるって言ってくれよ! 高卒だけどさぁ」


 岡本駅で木村くんと別れたあと、珍しく黒田くんがランチを奢ると言い出したので、半信半疑でついて行ったら、着いた先は摂津本山駅スグ北にあるマクドナルドだった。お店選びも金銭感覚も、中学時代とさほど変わっていないようだ。

 他愛もないことを話しているうちに、番号札を持って行ったトウマくんが、ハッピーセットを持って戻ってきた。


「あれ? あっ、これ、ひみつのひとつだ!」

「それって、シークレットってこと? スゲーじゃん。ウェーイ!」

「わーい!」


 ハンバーガーやポテトより、もっともトウマくんが関心を持っていたのは、オマケのトミカだったようだ。黒田くんがノリノリでハイタッチを求めると、トウマくんは、元気よくタッチを返した。

 こういう時は、子供と同じ目線で盛り上がれる方が良いのかなぁと考えつつ、私のフィレオフィッシュセットと黒田くんのビッグマックセットはまだかしらと、空腹を抑えながら思った。

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