053「カノコ、駆け引きに勝つ」
グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。シンプルなゲームながら、時として高度な心理戦が繰り広げられるのが、じゃんけんの面白さだろう。
「ルール説明も終わったところで、さっそく始めましょう!」
「はーじーめーの、第一歩!」
「ゲームが違う!」
ここまでは、台本通り。一段上がって偉そうな顔をしている黒田くんを引っ張り降ろしたところで、じゃんけんグリコがスタートした。ゲーム参加者はトウマくん、黒田くん、私の三人で、木村くんは司会をしつつ、カメラを持って移動する。
「じゃんけん、ぽん!」
「やったー、かった!」
「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」
「じゃんけん、ぽん!」
「よっしゃ! パ、イ、ナ、ツ、プ、ル」
前半は一進一退の展開だったが、徐々に差が開いていき、そのうち、じゃんけん前に出す手を予告するようになっていった。
「俺は、グーを出すぞ」
「それなら私は、パーを出すわ」
「ぼくは、チョキにするー」
「じゃんけん、ぽん!」
グーを出すと言えばパーを出すと睨んだ黒田くんがチョキを出し、パーを出すと言えばチョキを出すと思った私がグーを出し、宣言と違う手を読み合うことを理解できていないトウマくんがチョキを出したので、この勝負は私の勝ちになり、あと三段だった私は、あがりとなった。
「一着は、守屋さんでした~。おめでとうございます! どうでしたか?」
「久しぶりに遊びましたけど、童心に帰った気がして楽しかったです。ありがとうございます」
「さぁ、残すは太子くんと妹子ですね。太子くんは、あと六段、妹子は、あと十二段といったところでしょうか。わかってますよね、妹子?」
「おっ、おぅ!」
「頑張ってね、太子くん。チョキかパーで、あがりだよ」
「うん。がんばる!」
「これで決着がついてしまうのか。それでは参りましょう。両者とも、よろしいですか? じゃんけん、ぽん!」
チョキかパーならチョキが勝つからと考えたトウマくんは、チョキを出した。そして、それを深読みした黒田くんは、木村くんの念押しを無視してグーを出した。
「グ、リ、コ、の、パ、リ、パ、リ、ミ、ル、フ、イ、ユ。――イテッ!」
「君は、どうして大人げないことをするんでしょうね」
「ええっ。逆転勝利しろって意味じゃなかったの?」
「誰も妹子の勝ちを望んでないわよ。見なさい、太子くんの唖然とした顔を」
「わーっ! ゴメンよ、空気読めなくて」
このあと、再びゲームの最初から撮り直すことになったのは、言うまでもないだろう。一回戦で幸運を使い果たしたらしく、二回戦では、一着がトウマくん、二着が私、そして黒田くんは反則負けとなった。
ちなみに、トウマくんがあがったあとには、こんな小芝居も挟んでいる。
「よぅ、妹子。今日こそ、ここで白黒付けようじゃねぇか」
「へっ、面白い。あとで吠え面かいても、知らねぇぞ」
「それは、こっちのセリフだ。いくぞっ!」
「来いっ!」
「最初はグー、またまたグー、いかりや長介、頭はパー、正義は勝つ、とは限らない、じゃんけんポリポリ、加トちゃんペッ、出さなきゃ負けよ、じゃんけぽん! ――勝った!」
「くーっ、また負けた」
ドリフの前半コントでお馴染み、ジャンケン決闘の一場面である。負けた黒田くんは、トウマくんの手によって短パンに大きく膨らませた風船を詰められ、画鋲で割られた瞬間に、恐怖心から思わず「マダムヤーン!」と震える声で言った。




