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050「カノコ、壁にぶつかる」

 部屋も綺麗になったし、なんとなく将来の方向性も見えてきたから、あとは希望職種の求人を見つけて応募しまくろうと思っていたのだが、世の中、そんなに甘くなかった。

 短大・専門学校卒不可だったり、長期雇用前提で二十五歳までだったり、必要な資格を持っていなかったりと、履歴書を送る前段階でアウトになるケースが多い上に、仮に書類選考が通ったとしても、面接で落とされてしまい、結局、いまだに内定を勝ち取れていない。

 

「こうしてニートが増えて行くのかぁー」


 スーツをハンガーに掛けるのも煩わしくなるくらい疲れて果てた私は、持っていたジャケットをビジネスバッグと一緒に机の上に放り投げ、スラックスがシワになるのも厭わずに、ベッドの上に大の字になった。

 リビングのカレンダーは、海の青が目を惹く七月から、山の緑が眩しい八月に替わっている。九日が誕生日なので、それまでにパートやアルバイトでも良いから就職先を確保したいところなのだが、もう心身ともに限界が近い。


「カノコ、生きてる?」

「身体的には、なんとか。でも、社会的には、デッドラインすれすれ」


 お姉ちゃんが様子を見に来たので、投げやりに答えを返した。そして、疑問をぶつける。


「トウマくんは?」

「川島さんの家よ。向こうはカノコのこと、知ってるみたいだったけど」

「川島さん、川島さん……。あっ、ヒマリちゃんのこと?」

「やっとコンセントにプラグが刺さったわね」

「疲れてるのよ。それで、どこかで会ったの? 前に会った時は、連絡先を交換した覚えは無いんだけど」

「MRの予防接種があって、三時ごろにリスのマークの小児科へ連れて行ったら、たまたま待合スペースで一緒になったのよ」

「あぁ、あの国道2号線沿いにある小児科か。MRって何だっけ?」

「麻疹風疹混合ワクチンよ。一回目の時に大泣きしたから、また今回も嫌がるんじゃないかと思ったんだけど、針を見ないように目を瞑るだけだったの。成長したものだわ」

「ヒマリちゃんが居たからじゃない? 診察室から泣きながら出るのは、カッコ悪いもの」

「それもあるかも」


 このあと、お姉ちゃんは「トウマを迎えに行くから、留守番をよろしく」と言い残し、適当に支度をして出掛けて行った。ちなみに、川島家があるのは本山南町で、交通公園のすぐ近くなのだそうだ。交通公園にはジョギングコースもあるし、広めの芝生もあるから遊び場に事欠かないことだろう。園内には、たしか古い蒸気機関車や路面電車が保存されていたはずだから、トウマくんは喜ぶに違いない。


「あー、一日でいいから子供に戻りたいなぁ。――あっ、バイブが鳴ってる」


 スマホに、木村くんからのメッセージが届いた。童心に帰りたいと思ったからだろうか、その内容は、遊び心をくすぐるものだった。

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