048「カノコ、気の置けない友と盛り上がる」
中学時代の修学旅行先は長崎で、移動は新幹線と観光バスだった。予算の都合なのか、それとも週五日制に変わったからなのか、早朝六時新神戸駅集合から始まる一泊二日の旅で、初日は原爆関係の施設を巡り、夜には被爆者の方から貴重な体験談を聞くという勉強色が強い一日で、二日目は路面電車を駆使しつつ、グループごとに市内を半日遊び回るという観光色が強い一日だった。
たしか、バスのレクリエーションで、真面目で堅物な委員長が、ガイドさんの無茶振りでモノマネをさせられたり、学校ではジャージ姿しか見たことのない体育の先生が、意外とお洒落さんだったりと、普段と違う一面を見られた二日間だったと記憶している。
「五人班OKだったら、二グループに分かれずに済んだのにね」
「そうね、カノコ。自由行動で、マアヤと木村くんは別々だったもんね」
「そういえば、マアヤとは別だったわね。欲を言えば、もう一泊したかったなぁ」
「俺も俺も。平和学習が無けりゃ、初日から観光出来たのにな」
「アホか。それじゃ、ただの団体旅行じゃないか」
このあとも、音楽の先生は、転任先でも吹奏楽部の顧問をしているらしいとか、英会話の先生が、空港でテレビ番組のインタビューを受けていたとか、本当か噓か分からない風の噂で大いに盛り上がった。
そのうちに、最初に頼んだドリンクが残り少なくなっていき、あとから注文した料理が次々に運ばれてきた。
「マアヤ、まだ撮るの?」
「ワッフル、冷めちゃうんだけど」
「お願い。あと一枚だけ」
「一個くらい足りなくても、バレないんじゃね?」
「手を下ろせ。僕の皿を狙うな」
ヤスエが黒蜜きなこのワッフル、私が生チョコバナナのワッフル、そしてマアヤは、かぼちゃモンブランとフロマージュのワッフルと、女性陣はワッフルを注文し、木村くんは、ローストチキンにたまごと野菜を挟んだハウスサンド、黒田くんは、海老とタルタルのアボカドサンドと、男性陣はサンドイッチを注文した。朝食を食べなかったという黒田くんは、追加でピザトーストも注文している。
五人分の料理が揃ったのだが、ブログに載せる写真を撮るというマアヤに付き合って、まだ誰も手を付けていない。まだまだ撮影に時間が掛かると踏んだヤスエが、新たな話題を切り出した。
「そういえば、カノコ。この春に木村くんが結婚したことは、知ってたっけ?」
「えっ、初耳。指輪、してないよね?」
「えぇ。落としたり忘れたりしたくないので、家に置いたままにしてあるんです」
「ホントかなぁ~。式が済んですぐに出品したんじゃねぇの?」
黒田くんが木村くんに疑いの目を向けると、木村くんはスマホを取り出し、なにやらデータを探しはじめた。
「たしかクラウドに、レオナが友人代表のスピーチをしている動画があるんですけど……」
「ちょ、ちょ、ちょ! それは、お蔵入りだって言ったじゃん。なんで、クラウドに上げてんだよ」
「どんなスピーチだったの?」
「前半笑って、後半泣ける感じだったわ」
黒田くんが木村くんの手からスマホを奪おうとするが、木村くんのほうが黒田くんより二十センチくらい背が高いので、まったく届かなかった。黒田くんが先に立ち上がり、続いて木村くんが立ち上がり、黒田くんが靴を脱いでイスに上がろうとしたところで、マアヤの大撮影会が終わったので、二人は着席してサンドイッチを食べ始めた。
しばらくすると、ランチタイムの会社員の姿が増えてきて混雑し始めたので、食事を終えた私たちは、近くのカラオケへと移動することにした。




