047「カノコ、パスを回す」
朝食の席でトーストを食べながら昨夜のことを掻い摘んで話すと、今日はお休みだというお義兄さんから、トウマの面倒は自分が看るから楽しんでおいでと言われた。
それが、お姉ちゃんが出勤したあとの朝の九時前のこと。そのあと、朝食を済ませた私は、同級生だから気張った格好でなくても良いかと考えつつも、元町という場所を意識して、七分袖のサマーニットにチェックのサブリナパンツというスタイルに落ち着いた。
「梅野ーっ! こっちこっち!」
「お久しぶりです、梅野さん」
「ご機嫌いかが、カノコ」
「先週以来ね。落ち込んでるかと思ったら、元気そうじゃない」
「みんな揃ってたんだ。まだ集合時間前なのに」
JR元町駅の東口に集合した私たちは、鯉川筋がメリケンロードと名前を変える直前、西国街道との交差する角に聳えるハイカラな建物へと足を踏み入れた。ふと見上げて左右を見渡せば、アール状になっている角にも、石造りの壁から生えて垂れさがっている旗にも、随所にDAIMARUの七文字や円形のシンボルマークが目に映る。ちなみに、ここから少し西へ歩けば、南京町と呼ばれる中華街があり、そちらも連日、世代や国籍を問わず、観光客でごった返している。
「ねぇ、ヤスエ。ここは、どうかしら?」
「私、店前で待ちたくない派なの。混んでるみたいだから、下へ降りてみようよ」
「もう一階下に、UCCのカフェがありますよ」
「良いじゃない。行ってみよう」
「最近は、どこも禁煙なんだな。肩身が狭いぜ」
上の階から順に、ティールーム、ティーサロン、フルーティーサロンなど、フロアガイドに「喫茶」と分類されているカフェを見て回った結果、地下二階まで降りて、ようやく五人で座ってゆっくり出来そうなお店を見つけた。
平日だからか、それともブレックファストともランチともつかない時間だからか、運良く空いているテーブルがあり、通路側の席に私たち女性陣三人が座り、壁側の席に男性陣二人が座った。フードメニューは後ほど頼むとして、まずは暑さで渇いた喉を潤すべく、先にドリンクを注文することにした。
「私は、コーヒーフロート。カノコは?」
「私は、神戸ミックスジュースにしようかな。マアヤは?」
「うーん。迷うけど、黒糖カフェ・オー・レにするわ。木村くんは?」
「僕も、冨永さんと同じで。とりあえず、以上です」
「おい! 俺の檸檬スカッシュを飛ばすな」
特に打ち合わせも無いのに、バトンパスがうまく繋がり、キレイにオチが決まった。しばらく会っていなかったのがウソのように、すぐに打ち解けることが出来るのも、過去の積み重ねがあってのことだろう。お互いに相手への信頼が無ければ、到底、こんな芸当は出来ない。




