046「カノコ、グッドタイミング」
途中で睡魔に負けて眠ってしまったトウマくんを、お義兄さんが二階へ寝かせに行ったあとも、なんとなく結末が気になり、最後まで映画を見てしまった。ストーリーはハチャメチャだし、最後に全員が踊ってハッピーエンドになるラストには、もう笑うしかなかったが、誰も傷つけない優しさが溢れていて、観終わったあとは自然と爽やかな気持ちになった。無駄な時間を過ごしたとは感じさせないエネルギーが、フィルムの中に詰め込まれていた気がする。
「さて。私も、自分の部屋へ引き上げるか」
誰にともなく独り言をつぶやきつつ、エアコンを切り、蛍光灯を消し、二階へ上がる。
そして、ベッドに大の字に寝そべって真っ白な天井を見上げながら、ポッカリ空いてしまった明日、何をしようか考えていると、まるで私の様子を見聞きしていたかのような錯覚を起こすほどのナイスタイミングで、スマホにグループ申請の通知が届いた。
誘ってきたのはヤスエで、申請を許可したあと、ヤスエとしばらく会話しているうちに、他に三人がグループメンバーとして登録していると分かった。そのうち一人はマアヤで、あとの二人は、
カノコ:なんで黒田くんがいるのよ?
ヤスエ:木村くんを誘ったら、一緒についてきちゃって
タカシ:すみませんね。横からスマホ画面を覗き込まれてしまったもので
レオナ:ちょっ! もう少し俺を歓迎してくれよ。タカシのバーターみたいじゃん
木村タカシくんと、黒田レオナくんだ。二人とも中学時代の同級生で、木村くんとは小学校も同じだが、黒田くんは二年生の秋頃に横浜から転入してきたので、そこまで付き合いは長くない。
木村くんは、どちらかといえば大人しいタイプで、運動場でドッヂボールをする姿よりも、図書室で本を読んでいる姿をよく見かけたという印象が強い。かといって、スポーツが苦手というタイプではなく、球技大会がバスケットボールだった年は、持ち前の長身を活かしてクラスを優勝に導いていた。
一方、転入生である黒田くんとは、そこまで付き合いは長くないのだが、三年の春にあった修学旅行のグループが同じだったことで、それ以降、勝手にマブダチ認定を受け、今に至っている。まぁ、悪い子ではないんだけど、ちょっと気を許すとウザ絡みしてくるところがあるので、一対一で長時間一緒にいるのは遠慮したいタイプなのよ。ちなみに、同じグループにはヤスエもいたが、マアヤと木村くんの二人は別のグループだった。
このあとに、奥様懇親会という名の忖度付きお食事会を終えたマアヤも加わったところで、話題は、それぞれの近況報告に移っていった。
ヤスエとマアヤの近況に新たな情報は無かったが、木村くんはプログラマー、黒田くんがガソリンスタンドの店員であり、二人は時々、ユーチューバーとしても活動していることが判明した。
ヤスエ:漫才やコントの配信かぁ
カノコ:脚本が木村くんだから、ストーリーはちゃんとしてるでしょう。黒田くんが調子に乗ったらアレだろうけど
マアヤ:でも、すごいわ。機械にお強いんですのね
タカシ:プログラマーですから。動画の編集くらいなら仕事より簡単です
レオナ:あれ~。またタダ働きさせる気かって、言ってなかったっけ?
ヤスエ:黒田くんが厚かましいお願いをした、に一票
カノコ:二票
マアヤ:私も、もう一票ですわ
タカシ:以上三票により、議会は賛成多数で可決されました
レオナ:待った! なんで俺だけアウェイなのさ
そんなこんなで、日付変更線を跨ぐ直前まで下らない話をしていたら、なんだか学生特有のノリが懐かしくなって、久々に五人で集まらないかという話になった。
平日ということもあり、なかなか休みの取れないヤスエは難色を示したんだけど、マアヤが五人分のランチを御馳走すると太っ腹な発言すると、仮病を使ってでも有休をもぎ取ると言い出し、じゃあ十一時に元町駅に集合ということでキレイにまとまった。
良く出来た連続ドラマのように話が進んでいる気がするが、好転するにしろ、そうでないにしろ、タイミングが一気に重なるものなのだろうと思う。




