045「カノコ、お祈りされる」
引き寄せの法則というモノがあるなら、追っ払いの法則があってもおかしくない。どこかで嫌だ嫌だと思っていると、その気持ちが相手に伝わってしまうことがあるものだ。
「はい。今、呼びます。――カノコさん。電話です」
「はーい」
夕食のあと、地上波初登場だというインドのコメディー映画をトウマくんと観ていたら、電話に出たお義兄さんに呼ばれたので、私は廊下へ出て電話を代わった。
「誰からですか?」
「トミナガさんという女性です」
「トミナガ? ――もしもし、梅野です。……なんだ、マアヤか」
冨永という苗字ではピンと来なかったが、掛けて来たのはマアヤだった。声の調子で判断する限り、元気そうだ。
「どうしたの? 愛しのダーリンに不倫が発覚したなら、慰謝料を請求すべきよ?」
『もぅ、カノコったら、相変わらずなんだから。私のお話じゃなくて、カノコに関わることよ。ちょっと言い難いんだけど、謝らなきゃいけないことがあって』
「もしかして、例の社長さんの件なの?」
『そうなのよ。社長さんのお宅で、おとといの夜、以前に住み込みで働いてた家政婦さんが忍び込んで、キッチンやクローゼットなんかを荒らした挙句、お仕事関係の物を置いてある倉庫に火を点けて逃げたんですって』
「まぁ、大変ね」
『でしょう? まぁ、火は燃え広がらないうちに消し止められたし、昨日のうちに犯人は捕まったんだけど、一方的に解雇された恨みだとか何とか言って、どうもゴタゴタもめてるそうなのよ。だから、えーっと』
「面談をしている場合じゃないってことね?」
『そういうこと。ごめんなさいね。せっかく、期待してたところでしょうに』
「ううん、気にしないで。また、他を当たってみるから」
『社長さんも、本当に申し訳ないっておっしゃってて、もし良ければ、事後処理が一段落してからお話ししたいそうなんだけど』
「うーん、そうねぇ。でも、お会いするにしたって、かなり先の話になるんじゃなくて? 私なら、もうこの件は無かったことにしてもらって構わないんだけど」
『あら、そう? カノコがそう言うなら、私の口からそういう風に伝えておくけど、ホントに良いの?』
「いいの、いいの。――それより、ブログのことなんだけどさぁ……」
こういう事態に陥るということは、ご縁が無かったのだろう。プロモーションビデオを見てから、どうも乗り気になれないところでもあるし、ここでスッパリ清算した方が良いだろう。そう考えた私は、明日の甲陽園行きのことは忘却の彼方へ場外ホームランさせ、久しぶりの同級生との会話に、時おり思い出話を交えつつ、花を咲かせた。




