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044「カノコ、アイデアを繋げる」

 昨日、電話口で伯母さんがアイデアを出して欲しいと言っていた案件は、こうだ。

 顧客の大半が、改装当初から付き合いのある二十年来のリピーター客で、平均年齢が伯母さんと同じくらいであり、三人集えばお薬の話、五人集まればお寺の話といった調子なのだとか。まぁ、超高齢社会を如実に反映しているといえばそれまでだが、そうした世界の傾向に負けることなく、ぐいぐい若年層を取り込んで新たな風を入れたいのだそうな。


 そこで、家族の中では比較的若いお姉ちゃんか私に、若者目線での忌憚ない意見を伺いたいなぁと思ったわけだ。私よりお義兄さんのほうがより若いし、そのことは伯母さんも分かっているのだが、伯母さんとお義兄さんは、お姉ちゃんの結婚式で軽く挨拶を交わした程度の間柄なので、きっと遠慮して率直な感想を言ってくれないだろうと考え、候補から外したのだそうだ。

 

「縁起悪いことを言うようだけど、このままだとお客さんがバタバタ亡くなって、一気に減っていっちゃうじゃない。図々しいけど、私、あと三十年は続けるつもりよ?」

「じゃあ、ぼくがおとなになっても、おみせがあるね。ファイット―!」

「イッパーツ!」


 掛け声と同時に、伯母さんとトウマくんはハイタッチをした。意気投合しているのは結構だが、こういうノリが苦手な若者が増えているから、顧客増に繋がらないのではないだろうか。そもそも論になるが、お喋りを楽しみたいなら、会話アプリが充実しているから直接会わずとも済む話だし、思いっきり歌いたいなら、チェーンのカラオケボックスへ行ったほうが安上がりだ。自分とは二世代も上の人と会話したり、まったく興味のない昔の流行歌を聞かされるとあっては、スナックへ行くメリットを感じないだろう。その上、お酒やタバコが苦手だったら、なおさら近寄り難いに違いない。

 だが、そうかといって、若者を意識したポップなお店にしてしまうと、今度はシニア世代の憩いの場を奪いかねない。行き場を失った常連客が自宅に閉じ篭り気味になり、認知症や寝たきりにでもなったら、それはそれで良くないに違いない。きっと日本各地では、同じような問題を抱えている自治体や公共団体が、山ほどあるんだろうなぁ。

 はてさて。何か、良い打開策は無いものだろうか。

 

「ねぇねぇ、ヨシコママさん」

「なんだい、トウマくん?」

「あそこにならんでるキレイなビンは、なぁに? なふだがついてるね」

「あぁ、これね。これは、常連さんがキープしてるボトルよ。お家に持って帰れないから、お店に置いてあるのよ」

「なんで、もってかえっちゃダメなの?」

「あくまでスナックは、お酒を飲みながら楽しい時間を過ごしてもらうための場所だからよ。それに、ここでお酒が買えるとなったら、お酒屋さんのお仕事を横取りしちゃうことになるの」

「そっか。でも、おいといてくれるのは、おさけだけなんだね。ジュースとかサイダーとかもおいてくれたらいいのに」

「それよ!」


 閃きのあまり、思わず叫んで二人をびっくりさせてしまったが、トウマくんの着眼点は非常に素晴らしい。

 このあと、私がトウマくんの素案を基にして、より具体的な改善案にまとめると、伯母さんは大いに参考にすると言って喜んでくれた。

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