041「カノコ、同行者が増える」
「それじゃあ、トウマくんも連れて行けって言うの?」
「そうよ。だって、しょうがないじゃない。みんな仕事があるんだから」
胸に針で刺されたような痛みが走る。もちろん比喩だが、仕事を失った辛みが、あとからジクジクと効いてくる。
この会話の発端は、夕食が終わったあと、トウマくんが二階へ上がってからのことだった。明日は日曜日だから、てっきりお姉ちゃんは休みだろうと思っていたら、今やってるプロジェクトのリーダーが猛暑でダウンしたために、シワ寄せが来て休めないというのだ。そのあと、お義兄さんも申し訳なさそうに、明日は海外からゲストスピーカーが来日するから、どうしても休めないと言われてしまい、トウマくんを長田へ連れて行かざるを得なくなってしまったのだ。ナンテコッタ。
「でも、あそこはカラオケスナックよ?」
「大丈夫よ。営業時間外に行くんだし、お酒が入るわけでもないでしょ?」
「そりゃ、そうだけども……」
「伯母さんだって、事情を説明すれば分かってもらえるますよ」
このあと、場所をリビングに移し、お姉ちゃんと二人で話し合ったが、結果は変わらず、私は腹を括るしかなかった。
そして迎えた、翌朝のこと。
トウマくんに長田へ行くことになったと伝えると、ロボットは見られるかと尋ねられた。一瞬、何のことかとピンと来なかったが、トウマくんが立ち上がって脚を開き、右腕を天に突くようなポーズをとったことで、鉄人28号のモニュメントのことを言っているのだと理解できた。
このモニュメントは、高さ十五メートルあまりの鉄骨造で、神戸出身の漫画家で長田にゆかりの深い横山光輝氏にちなんで造られたものだそうだ。昨年にはモニュメント完成から十周年を迎え、盛大に記念イベントが開催されたらしい。阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた長田の街の復興のシンボルとしても、地元では愛されているようだ。以上、スマホより抜粋。
高さ十五メートルというと、奈良の大仏こと東大寺盧舎那仏坐像と同じくらいか。十歳の少年が操るには、ずいぶん大きなロボットだな。
「てつじんは、リモコンでうごくんだよね?」
「そうそう。だから、敵に電波をジャックされると弱いの」
「めからビームは、でる? パンチは、とばせる?」
「えーっと。そういう仕組みは、たしか無かったんじゃないかなぁ」
どうやらトウマくんの脳内では、ウルトラマンやマジンガーZとごっちゃになっているようだ。こうなったら、ちゃんとした鉄人の姿を見せておいた方が良いだろう。よし。少し寄り道することになるが、若松公園に寄ってから大正筋商店街へ行くことにしよう。鉄人28号を見るという別の目的が出来たことで、トウマくんを長田へ連れて行くメリットが出来るではないか。




