037「カノコ、人選の良さに落ち着きを感じる」
夏、真っ盛り。ギラギラの太陽がお出ましなので、日焼け止めクリームと制汗スプレーが手放せない。こんがり小麦色になることも、ブラウスの腋に汗染みが出来るのも避けたいところなのだ。そんなわけで、私は摂津本山駅の中にあるマツモトキヨシでCurélと8×4を買ってトートバッグに入れてから、急いで駅の北側にあるバス停へ向かった。
「バス、きた! ノンステップだ」
バスに乗ってから段を上がるのがワンストップバス、床がフラットなのはノンステップバスと呼ぶそうだ。車イス利用客のためにも、すべてのバスをノンステップにすれば良さそうなものだが、ノンステップバスは急勾配に弱いという難点があるため、南北に高低差が大きい神戸の街では、これら二種類のバスが混在しているのだとか。以上は、トウマくんとお義兄さんの豆知識を基にした情報だ。お義兄さんは学生時代、36系統を利用していたそうだ。
「しゅうてんだと、ピンポンおせないから、つまんない」
JR摂津本山駅前停留所から、神戸市バス43系統に揺られること十五分あまり。トウマくんとお義兄さんと私は、サンシャインワーフへと到着した。到着直前、トウマくんは降車ボタンを押せない不満を口にしていたが、空調の効いた店内に入る頃には、機嫌は直っていた。
「デンデン、デンキ。やまーだでんき!」
ジョーシンしかり、ビックカメラしかり。家電量販店といえば、やたら明るい店内に、大音量でオリジナルBGMがリピートされているのが定番だ。トウマくんは、そのポップなメロディーに乗って、ルンルン気分だ。
テレビコーナーに行けば、大自然の映像がハイビジョンで流されているし、掃除機コーナーに行けば、ロボット掃除機が障害物を避けながら、カーペットに散らされた紙屑をせっせと集めている。マッサージチェアでは、お疲れパパが鼾をかいて寝ているし、ダイエットマシーンでは、ふくよかすぎるマダムが二重顎と三段腹を揺らしている。
そんな賑やかな店内を見渡しつつ、私たちは目的のエアコンが置いてあるコーナーへ向かった。
「このエアコンと、こっちのエアコンは、何が違うんですか?」
「はい。こちらは、空気清浄とフィルターの自動洗浄が付いていまして、お子さまがいらっしゃるのでしたら、こうした機能が搭載されている方が安心かと」
「でも、高いわね。こっちは、何が付いてるの?」
「えーっと、こちらは気流制御が可能となってまして、温度が高いところと低いところを自動で見分けて、より効率よく冷風や温風を届けられるシステムが備わっています。暑がりさんにはより涼しく、寒がりさんにはより暖かく過ごしていただける工夫です。はい」
「へぇー。おばあちゃんに、いいかもね」
ブティックなんかと違って、呼ばない限り店員さんが寄って来ないので、ゆっくり見て回れるのは良いところ。その反面、店員さんの人数が少ないのか、いざ用があって声を掛けたい時に姿が見当たらず、少し探してしまった。
ようやく捉まえた店員さんと交渉の末、下取りがある分、ちょっとだけ安くしてもらうことに成功した。まぁ、お母さんを連れて来ていたら、もっと安くなったかもしれないけれど、周囲の目が気になるレベルで値切り倒すので、今日は一緒じゃなくて良かった。お義兄さんの冷静な値段交渉を見たから、余計にそう思うのかもしれない。




