034「カノコ、パズルを手伝う」
自称美女仮面の闖入というアクシデントはあったものの、材料を切る、炒める、煮るの工程は特に大きな問題も起きず、炊飯が始まる四時を回る頃には、あとはルーを入れるという段階まで進んでいた。出来上がったカレー鍋は、蓋をしてコンロの上に置いたままにしてある。寝かせることで、より美味しくなっていることだろう。
そして今は、私の部屋でトウマくんの遊び相手をしている。
「ここ、黒いからジジじゃない?」
「そうかな? キキのおようふくかもよ?」
「あっ、そうか。その可能性もあるわね」
全部で108ピースあるジグソーパズルを、昼間にIKEAで買ってきた折り畳みテーブルに広げ、トウマくんと二人で額を寄せてピースをはめている。このパズルは、私が小学生の頃からある物で、よくもまぁ、今日まで1ピースも欠けなかったものだと思う。
ちなみに、このパズルを買ってきたのはお父さんで、最初にピースだけ渡され、箱に描かれた完成イラストは、すべて嵌め終わってから確認として見せられた。たしか、達成するまで一週間ほど掛かったはず。
そういう遊び方もありといえばありなのだが、今回は、箱を見ながら組み立てていく。セオリー通りに外枠から組み立てを始め、イラストとにらめっこしながら特徴的な色合いのピースを集めて合わせていく。
「これがほうきだから、こっちがうえだよ」
「あー、そう向きか。だとしたら、こっちのチョット赤いのがリボンね」
ああでもない、こうでもないと試行錯誤していると、一階からお母さんが上がって来た。足音に気付いた時点で何かやるだろうと身構えていたが、案の定、暖簾をペラッとめくりながら、往年のギャグを飛ばしてきた。
「いらっしゃ~い!」
「やっぱり、お母さんか。ここに新婚さんは、いないわよ」
「よく分かったわね。さすが、私の娘!」
わからいでか。ピースを持ったまま呆気に取られているトウマくんに、落語家が司会をする視聴者参加型トーク番組の存在を教えた。すると、トウマくんは「あぁ、あのいすにすわるのがヘタなおじいちゃんか」と納得した様子を見せた。お約束のアレは、わざと転んでるんだけどなぁ。
私の説明に補足するような形で、お母さんがイエス・ノー枕について触れようとしたので、教育的配慮として話に割り込んで本題へ戻す。
「ところで、何か用? お姉ちゃんなら、定期の更新に行ったわよ?」
「知ってる。お風呂に入るんだけど、トウマくんは?」
「ん?」
トウマくんが首を傾げてこちらに助けを求めてきたので、私は質問の意味を説明する。
「おばあちゃんと一緒に入るかどうかってことよ。さっき、お風呂が沸いたメロディーがしたでしょ?」
「そうだっけ? うーん。パズルがとちゅうだから、あとではいる」
「あら、残念。せっかく、合法的に幼児の裸が拝めると思ったのに」
「半径二キロ以内に近付かないで」
「せめてメートルにしなさい。家に入れないじゃない。――それじゃ、お先に」
腕を広げてトウマくんをガードすると、お母さんは気分を害したようなポーズを見せつつ、下へ降りていった。




