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032「カノコ、柔軟な発想に笑う」

 ヨーロッパには、良質な家具を永く使う風習があり、家具を修理する職人も多い。日本でも、戦後に大量消費社会へと移行するまでは、匠の逸品を大事に受け継ぐ文化が残っていた。

 星条旗の国を悪く言うようで恐縮だが、安物を使い捨て続ける習慣は、もう時代に合わないのではないかと思う。


「デーデン、デーデン、ガオーッ!」


 サステナブル社会についてのパネルを見ながら、漠然と地球環境について考えを巡らせていたら、長さ一メートルほどの鮫のぬいぐるみを抱えたトウマくんが、ジョーズの真似をして迫ってきた。

 芸達者だなぁと思って笑っていたら、ティーポットを見ていたお姉ちゃんがツカツカと足早に戻ってきて、元の場所に置いてくるよう命じた。


 さて。そんなこんなで二階から順路に沿って回遊した結果、予定していたトウマくん用のキッチングッズの他に、シーツや枕カバーといったリネン類、脚を広げればベッドやソファーの上でも使えるトレイ、底が錆びてきたヤカンに代わる新しい笛吹きケトル、衣類や玩具を入れておける蓋付きの収納ボックスなど、さほど重くは無いが地味に嵩張る物を購入し、ひとまず買い物を終えた。

 冷静に見直すと、わざわざIKEAで買わずとも良さそうな品も含まれている気もするが、気のせいということにしておこう。多少の衝動買いは、経済を回す潤滑油として見逃してほしい。


「ジュースとってきていい?」

「いいわよ。いってらっしゃい」


 買い物のあとは、陽当り良好のフードコートでランチタイム。

 トウマくんの席にはランチプレートがあり、カレーライスやフライドポテトなど、子供が喜びそうな料理が少しずつ盛り付けられている。ミートボールには紙と爪楊枝で出来た国旗が刺さっていて、トウマくんは真っ先にその国旗を外し、大事そうに紙ナプキンに挟んだ。どうやら、記念に持って帰るつもりらしい。五輪期間中だからだろうか、スカンジナビアクロスだけでなく、日の丸も一緒に刺さっていた。日瑞友好を象徴しているようで、ちょっと嬉しくなってくる。


「あら、トウマは?」

「ドリンクバーへ行ったわ」

「そう。取り皿を持ってきたから、好きによそって」

「ありがとう」


 私とお姉ちゃんのあいだには、ロティサリーチキンとグリーンサラダがある。ボリュームがあるので、二人でシェアするつもりなのだ。スプーンとフォークで取り分けていると、オレンジジュースをグラスに入れたトウマくんが、こぼさないよう忍び足で戻ってきた。

  

「テレッテレッ、テレッ、テレッテレ、テレッテレ、テレー……」


 このとき、トウマくんがピンクパンサーのテーマを口ずさみながらやってきたので、私はドリフの銀行強盗コントを思い出し、失笑してしまった。今度はお姉ちゃんも同じ連想をしたようで、お姉ちゃんは、しばらく俯いて肩を震わせていた。まったく子供というものは、どこで何を覚え、いつ何を思い付いて行動するか分からないものだ。

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