031「カノコ、人工島に上陸」

　ＪＲで摂津本山駅から三ノ宮まで普通列車で十二分。そこからポートライナーの三宮駅に移動し、南公園まで十一分。乗り換えや移動の時間を含めても、ＩＫＥＡ神戸まで四十分あまりで到着できる。

「あっ、みてみて！　はんきゅうだよ」

　三ノ宮駅に近付くと、途中からＪＲ線は阪急線と並走する。すぐ横の線路を走るマルーン色の特急列車を指差しながら、トウマくんは、それが新型車両であることを教えてくれた。

　この二社は線路の幅も車両の長さも違うので、相互乗り入れはしていないし、利用客層も沿線のカラーも異なる。このあたりが、油断すると熱海や伊勢崎まで連れて行かれてしまう関東との違いだろうか。

　ＩＫＥＡまでの道中でも、六甲道駅と灘駅のあいだに摩耶駅が開業していたり、ポートライナーの車両がくすんだクリーム色ではなくステンレスのスタイリッシュな新型に置き換わっていたり、しばらく使わないうちに変わった点は多々発見できた。駅のナンバリングも、きっと急増する海外からの観光客を意識しての取り組みなのだろう。

　黒船来航のあと、神戸港を開港してから百五十年あまり。欧米列強からの玄関口として急速に西洋化が進められた神戸には、新しい文化を吸収していこうという柔軟さがあるように思われる。震災後に素早く立ち直ることが出来たのだって、スクラップアンドビルドの精神が根付いているからかもしれない。

　

「イーケア、イケア。たのしい、イケア♪」

「トウマ、ちゃんと歩きなさい。周りの人に迷惑だから」

　紺地に黄色のロゴが見えてくると、トウマくんは上機嫌でジグザグにスキップしはじめた。お姉ちゃんは母親として注意をするけれど、傍で見ている分には、なんとも微笑ましい限りだ。

　ポートアイランドは、六甲山を削って埋め立てた人工島なので、当然のように海が近く、平坦で、いつも潮風が強い。スウェーデン国旗が激しくはためいている。

　ちなみに、この南公園近辺にはＵＣＣコーヒー博物館や青少年科学館があり、課外学習や工場見学の定番スポットでもある。私が高校生の頃まで、今、ＩＫＥＡが建っている場所には、神戸ポートピアランドという遊園地もあった。小学生の頃、二度か三度ほど家族で利用した覚えがあるが、巨大な観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどが印象に残っている。お父さんはベンチで待っているだけで、アトラクションを回るのは、主にお母さんやお姉ちゃんとだったなぁ。

「どうしたの、カノコ？」

「つかれちゃった？」

「ううん。なんでもない」

　過ぎた日々を懐かしく想っていたら、いつの間にか、足が止まっていたようだ。階下で待つ二人に追い付くべく、私は急いで段を駆け下りた。