022「カノコ、出来ない事は出来ないと言おうと決める」
窓辺で部屋干していた衣類と乾燥機に回した衣類を、まとめてリビングで畳んでいると、トウマくんが本とあやとり紐を持って降りてきた。
「カノコおねえさん、あやとりできる?」
「あやとりは、自信がないなぁ。やったことは、あるにはあるけど」
「じゃあ、できるんじゃない? これ、つくって!」
そう言ってトウマくんは、あやとりの教則本を捲り、四段梯子のページを開いて指差した。
「うーん。もうちょっと簡単なのが良いかな」
「えーっ。けんだまができるなら、あやとりもできるよ。だって、どっちもよんもじだよ?」
物凄い角度から、根拠がやって来た。けん玉への信頼は、どこから沸いてくるんだか。もしかめが、そこまで衝撃的だったのだろうか。
ひとまず、少しは期待に応えるべく、トウマくんから毛糸の輪を受け取り、梯子作りにチャレンジすることにした。だが、開始から僅か五手目で、早くも雲行きが怪しくなってきた。
「ここをこう、グイってするんじゃない?」
「えっ、どこ? これ?」
「ぜんぜん、ちがーう!」
トウマくんの指摘を受けながら、このあと何度もやり直してみた。だが、図の書き方が不親切なのか、それとも私の空間認知能力が劣ってるせいなのか、なかなか本のように糸を取ることが出来ず、絡まるだけで、一向に梯子になる気配が無い。
「ただいまー。あら、カノコ。何やってるの?」
「見て分からない? あやとりよ」
「おかえり、ママ。カノコおねえさん、あやとりのセンスないみたい」
「ふーん、四段梯子か。カノコ、ちょっと貸して」
お姉ちゃんはハンドバッグをソファーの端に置くと、私の手からあやとり紐を外し、本を見ながらスイスイと指を動かして、あっという間に四段梯子を完成させた。しかも、そこから富士山に変形し、最後にはドヤ顔を決めた。
「ママ、すごい! いま、どうやったの?」
「はいはい。教えてあげるから、先に荷物を置きに行かせて」
そう言って、お姉ちゃんは二階へと上がっていった。やっぱり、理系は図形に強いんだな。
うーむ。人には得手不得手があるとはいえ、トウマくんの羨望の的が私からお姉ちゃんへと移ってしまったのは、非常に残念だ。
こんなことなら、変な意地を張って失望を大きくするより、最初から出来ない事は出来ないと言った方が良かったかもしれない。まぁ、結果から逆算して後悔しても、先には何も立たないんだけどね。




