24.はじめての友人とアインハードと
シャルロッテとわたしはすぐに意気投合した。
元々同じ人間――アインハードをターゲットにしていたこともあって、共通の話題があるというのがとても大きい。
「ああ、アインハード殿下って美しすぎると思いません? いつまでも眺めていられますわ」
シャルロッテは王家が出してる公式ブロマイドを眺めつつ頬を染め、うっとりと瞳を輝かせている。
「まあ、そうだね。はじめて会ったときに『顔面国宝級』だなってのは思った」
「顔面国宝級! 本当にそのとおりですわ! ねえ、リビーが殿下にはじめてお会いしたのはいつですの?」
シャルロッテは興奮した面持ちでわたしのほうに身を乗り出す。
「わたしは……五歳の時だったかな。お兄様が側近候補に選ばれたタイミングでお城について行ったから」
「ええ!? なんて羨ましいのでしょう! わたくしもその場にいたかった! ねえ、その時の殿下の肖像画は残していませんの? 殿下のご様子は? どんな子供でしたか? 聞かせてください!」
授業の合間、放課後、寮での自由時間などなど、わたしはシャルロッテと一緒に過ごすことが多くなった。
シャルロッテは妃になりたいというより、アインハード個人を崇拝しているらしい。とにかく彼のことを知りたがったため、話が一向に尽きないのだ。
「ああ、生意気な七歳児のアインハード殿下なんて、愛らしいに違いありません! わたくし過去に戻って殿下にハグをしにいきたいですわ」
「愛らしい……まあ、今ならそう思えるかもしれないけど、五歳のシャルロッテが殿下に会ったらそうは思わなかったんじゃない?」
「そんなことありませんわ! ああ、リビーが羨ましい。その後も殿下と文通を続けていらっしゃったのでしょう? しかも、お兄様が殿下の側近候補でいらっしゃるから、殿下もリビーのことは忘れようがありませんもの。わたくしとは大違いですわ」
シャルロッテはそう言ってシュンと肩を落とす。入学式の日にアインハードがシャルロッテをあまり覚えていなかったことが密かにショックだったらしい。
「これからこれから! せっかく同じ学園に入学したんだもの。これからいくらだって認識してもらえる機会があるわよ」
「そうかしら?」
「そうだよ」
わたしの言葉にシャルロッテが笑う。つられてわたしも笑ってしまった。
(って、そうじゃないでしょう!)
わたしのバカ! なんでライバルを励ましてるのよ! むしろ戦意喪失させるべきだというのに、本当になにを言っているんだろう!
でも、シャルロッテはすごく嬉しそうにしているし、今更ひどいことなんて言えない。つくづくわたしは甘いなぁって思う。
(まあでも、最終的にわたしが選ばれればいい話よね!)
シャルロッテは簡単に戦意を喪失するような女性じゃない。なんならむしろ燃えるタイプな感じもする。だからきっと、これで正解なんだ。……そう思いたい。
(ああ、眠い)
眠い目をこすりながら校舎を歩く。
昨夜はシャルロッテとわたしの部屋で夜通しアインハードのことをしゃべっていた。まあ、二人揃っていつの間にか寝落ちしたんだけど。ただでさえ両親の悪夢のせいで寝不足なのに、これはまずい。
「リビー」
とそのとき、後ろから声がかけられた。わたしは急いで姿勢を正す。
「アインハード殿下」
「大丈夫か? フラフラしているように見えたが」
アインハードはそう言ってわたしの額に手を当てる。ドキッとしつつ、わたしは「平気です」と返事をする。
「まだ入学したばかりですから。少し根を詰めて勉強をしてしまったんです」
(本当はシャルロッテとアインハードの話をしてたんだけど)
夜通しおしゃべりをして寝不足だなんて言ったら評価が下がりかねないもの。まあ、話題の種が自分だったってことは喜ぶかもしれないけど。
「そんなことを言って、本当は友人とのおしゃべりに夢中になっていたんじゃないか?」
「なっ! どうしてそれを……!?」
わたしが言うと、アインハードはクスクスと笑いながら目を細める。
「わかるよ。俺にも同じ経験がある」
「ええっ? アインハード殿下もですか? 全然そんなふうには見えないですけど」
「生まれてはじめて城から離れられたからな。嬉しくて少し羽目を外してしまったんだ」
アインハードが懐かしそうに目を細める。
(なるほどね)
子供時代のアインハードはやんちゃだったし、わからなくもない。まあ、今はすごく落ち着いているから意外ではあるけど。
「そういう今しかできない経験だって必要だろう。ただ、学生の本分を履き違えないように」
「はい……肝に銘じます」
返事をしながらシュンと肩を落とすと、アインハードがわたしの頭をそっと撫でる。またもやドキッとしてしまった。
(これは……脈アリと見ていいのだろうか?)
個人的には、結構思わせぶりな行動だと思うんだけど……! 誰にでも同じことをしているのだとしたらかなりのタラシってことになるし、アインハードがどういうつもりなのかわたしにはわからない。
(シャルロッテや他の女性と一緒にいる場面を観察したらあるいは……)
「リビー、今度三年と一年の合同演習があるのは把握しているか?」
「え? はい、昨日そのようなことをお聞きしました。たしか、王家の保有する山林でフィールドワークをするんですよね?」
それは前世でいう自然教室のようなものらしい。異世界かつ高貴な身分でもそういうことをするのかって驚いたけど、単調な座学だけではつまらないし、わたしを含めクラスメイトたちも結構楽しみにしているのだ。
「リビーとペアを組めるよう、こっそり調整をしておいたから」
耳元でそう囁かれ、わたしは思わず目を見開く。
「ほ、本当ですか?」
「ああ。当日、楽しみにしている」
アインハードはそう言うと、わたしの頭を撫でてからもと来たほうへと去っていった。
(これは大きなチャンスだわ!)
演習中はペアを組んだ相手と半日近くを一緒に過ごす。アインハードにわたしをアピールする絶好の機会だ。
……まあ、シャルロッテには申し訳ないけど、仕組んだのはわたしじゃないし! 復讐のためにはシャルロッテを含め、誰にも負けるわけにはいかないんだもの。
(よしっ! 気合を入れて挑まないと!)
誰もいない廊下で一人、わたしはガッツポーズを浮かべるのだった。




