悪役令嬢は護衛の過去を知る
「俺が国王と側妃である母の元に産まれ、母が亡くなるまで隠れて暮らしていたことはさっきリアム殿が言った通りだ」
一旦そこで言葉を切ったダグラスは、開いた足の膝に肘をつき前屈みになって両手を組む。
続く言葉を言うのに、少しの努力が必要な、そんな雰囲気だった。
「公には病死として発表されたが、母は毒殺だった」
込められた思いは、どんなものだったのだろう。
ゲームではナレーションで流されてしまうようなそれは、でもダグラスの口から聞くと生々しく、言葉は痛みをはらんでいた。
「このまま王宮にいる限り命を狙われ続ける。母を失ったのなら留まる理由もなかった俺はすぐに王宮を出た」
「しかし、その時はまだ八歳だったのでは?」
ダグラスの告白に一瞬言葉を失った兄が気を取り直して聞く。
「そうだ。まだ一人で生きていくには難しい年だった。ただ…母はもし自分に何かあったら頼るようにと何人かの連絡先を教えてくれていたから、そこを頼った。俺が成人する前に自分に何か起こるのではないかと思っていたのだろう」
八歳の子どもが母親を殺されて家を出る。
頼る先があったとしても、その相手はそれまで親しくしていた人ではなかったに違いない。
少年だったダグラスはその時どれほどの痛みを抱えたのだろうか。
想像しただけで胸が痛んだ。
でも、実際にその立場になったわけではない私がいたずらに同情するのも違うと思った。
ダグラスの悲しみも苦しみも、私が本当に感じることはできない。
想像するしかない気持ちで同情するのは相手に対して失礼だと思う。
前世で、施設育ちと知るとたいてい反応は二種類に分かれた。
施設育ちとはつき合いたくないと離れていく人と、それは大変だったねと同情を寄せる人と。
もちろん、どちらでもなく普通につき合ってくれる人もいたけれど。
私は同情される方が嫌だった。
普通の家庭で育つよりは苦労も多かったけれど、私にしてみれば女を捨てられない母親と一緒の時の方が不安定で大変だったくらいだ。
幸い私の入れられた施設の大人はまともな人たちだったし、そんな大人たちに見守られて育つ子どもは貧しくはあったが温かかったから。
「それから先はひたすら鍛錬を重ね知識を蓄え、何者にも害されない、自分の意思でどんなものも選び取れるようになるために努力した」
私の心の中とは関係なくダグラスの言葉は続いていく。
一言で片付けてしまえる日々ではなかったと思う。
でもダグラスはそこをサラッと流した。
いや、むしろその頃のことは話したくないという意思表示なのかもしれない。
「そんな苦労をされたのに、なぜ王都に戻ってこられたのでしょう?」
兄の疑問ももっともだった。
王宮を飛び出し、王族として生きるのを辞めたのであれば王都に近づかない方が安全なのだから。
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