悪役令嬢は記憶を取り戻す
「…っ!」
意識が戻ってすぐ、見開いた目に映ったのは見覚えのある天井だった。
教職員棟の…?
パチパチと何回か瞬きをしていると、急に視界がかげる。
「エレナ!大丈夫か?」
視界いっぱいに広がるのは兄の麗しい顔。
相変わらず顔面偏差値が高いわー…なんてぼんやりしていたら、兄の顔がみるみるうちに心配そうに曇っていく。
「私のことはわかるか?気持ち悪かったり、どこか痛いとかは?」
「心配なさらなくても今日も抜群にイケメンですわよ」
「…いけ…めん?」
私の返答に兄が首を傾げた。
…!
ん!?
そこでようやく、私の意識がしっかりと覚醒する。
視線だけで素早く周りを確認すると、どうやら私は兄の個室のソファに寝かされているようだった。
…は?
思わず閉じた瞼の裏には友人の姿。
しかしその姿も急速に薄れていく。
いや、待って待って。
どういうこと?
私は今までの自己最速のスピードで頭を巡らせた。
えっと…さっきまで一緒にいた友人は?
…いないわね。
いるのは兄とダグラスのみ。
大学とか学食は?
…ここはオルコット学園。
…ということは、だ。
私は夢の中で前世に行き、戻って来たということだろうか。
「お兄さま。私はいったい…」
みなまで言うことなく、兄からの返事が返ってくる。
「エレナ、お前は急に倒れたんだ。頭が痛いと言っていたし、とりあえずソファに寝かして医者を呼んでこようかと思っていたのだが…今はもう大丈夫なのか?」
「それは…」
さっき見た前世で私は数ヶ月を過ごしている。
ところがこちらではほんの数分しか経っていない。
時間の流れが違ったのだろうか。
それとも…向こうで過ごしたのではなく記憶を取り戻しただけだった?
「頭はもう痛くありませんわ」
そう言って私は身を起こす。
改めてソファに座り直し、顔を上げて視界の中にダグラスを捉えた瞬間、私は理解した。
ああ…そうなんだ。
私がさっき見たのは失われていた記憶。
閉ざされ、封じ込められていた記憶が一気に蘇ってきたのだと。
なぜかすんなりとそう思えて、そしてその理由もストンと私の中に落ちてきた。
秘匿されていた第一王子の存在を認識したから、私の記憶は戻されたのだろう。
誰に、とか、なぜ、とか、思うところはたくさんあるけれど、理屈では説明のつかない力が働いているとしか思えなかった。
そもそも、前世の記憶持ちのまま異世界に転生していること自体が荒唐無稽なことだし。
ましてや転生先は乙女ゲームの世界。
ああ、そうだ。
まずはこれを確認しようかな。
「ダグラス、マチルダはあなたの影の一員だったのかしら?」
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