悪役令嬢は兄に突撃する
週末で学園がお休みの日、私は兄に会うために教員棟まで来ていた。
最近はエマが大人しくしているのでその隙に別の対策を立てておこうという魂胆だ。
このままエマがライアンルートを進んでいく限り、私は断罪の場に引きずり出されるだろう。
そして断罪されれば両親に捨てられて刑を待つことになる。
そこで兄だ。
ゲームとは違ってこの世界の兄はエレナのことを嫌っていない。
学園内で遭遇しても普通だし、何なら困っていることはないかと聞いてくるくらいなのだから。
それならウェルズ家をそうそうに継いでもらえるようにしておくのがいいと思う。
ただし断罪の場ではまだ父親が当主でないと困るのだけど。
というのも、私が断罪返しをした場合にウェルズ家にも余波がいくからだ。
その時に兄が当主だと責任を取らなければいけなくなる。
だから、いつでも爵位継承ができるようにした上で事を起こすのが一番なんだけど…そもそも兄にはあまり家を継ぎたいという気持ちがないような気がしてならない。
何ならこのままずっと教師でいいとか思っていそうだし。
まずは兄の意向を確認した上で爵位継承するようにもっていかなきゃいけないんだけど、どうなることやら。
心の中でぼやきつつ、私は兄の個室に到着した。
コンコン。
ノックをして返事を待ってから扉を開ける。
あ。
今日の専属護衛はダグラスよ。
なので扉を開けたのも彼だ。
「エレナか。休日に学園まで来てるなんて珍しいな」
「今日はお兄様にご提案があって参りましたの」
私の返答に一瞬疑問の表情を浮かべたものの、兄は応接セットに私を促すと自らお茶を入れ始めた。
「提案か。聞くのが怖いというか、私的には聞かない方が平和な気がしてならないのだが」
「あら嫌ですわ。私がお兄様にとって不都合になることを提案するとでも?」
えー!
兄の勘が良すぎて困ります。
まさか巻き込む気満々なのが醸し出されてる!?
「時にお兄様。ウェルズ家をお継ぎになりませんこと?」
「…っ。はぁ!?…ごほっ」
ちょうど紅茶を口に含んだところだったのか、勢いよくむせる兄はいつもの貴族然とした姿らしからぬ有り様だ。
紅茶を噴き出しても様になるってどういうこと?
顔が良いって得ねー。
「変な事を言った上に変な目で見るな」
失礼ね。
だんだん遠慮がなくなってきている気がするわよ。
「お前が何を考えているのかはわからないが、あの父親がそう簡単に爵位を譲るわけがないだろう?それに、私は正直ウェルズ家はどうでもいい」
「あら。ウェルズ家が潰れてもいいということかしら?」
「…誰もそこまでは言っていないだろう。少なくともまだ当分は父上が居座っているだろうし、仮に継いだとしても両親が小うるさく口を出してくるかと思うと…継ぎたくないな」
兄よ、最後に本音がダダ漏れだわ。
「だから、ですわ」
「どういうことだ?」
「お父様とお母様のことですもの、いずれ家の存続に影響するような何かをしてしまうのではないかと心配していますの」
ま、私がそう仕向けるんだけど。
「そうなった時に迅速に爵位を継ぐためにも、今から準備を始めても良いのではないか、という提案ですわ」
「いやだから、継ぎたくないんだが」
「お兄様、ウェルズ家嫡男として逃げることはできませんわよ」
私の言葉に、兄は椅子に深く身を預けると大きなため息をついた。
「わかってはいるんだ」
それこそ結婚していてもいいような年の兄に婚約者すらいないのはヒロインとの出会いがあるからかと思っていたけど…。
あながちそれだけではなかったのだろうか。
「爵位の継承には国の承認が要りますわ。お父様とお母様がやらかし…何か問題を起こしてしまった時にすぐに手続きができるように、必要な書類を用意しておきましょう」
「…エレナ、お前今『やらかし』と言わなかったか?」
危ない危ない。
ついつい心の中で思ったままの言葉が漏れちゃったわ。
「嫌ですわお兄様。そんなこと言っていませんわよ」
「…そうか?空耳にしてははっきり聞こえたような気がするんだが…?」
いやいや兄よ。
そこは全力で誤魔化すわよ。
「まぁいい。前向きに考えておく。なんだ、今日はそんなことを言いに来たのか?」
「そんなことではなく大事な相談、ですわ」
何とか兄を説得して、一息ついた私はここで初めて紅茶に口をつけた。
冷めてしまっても相変わらず兄の入れた紅茶は美味しい。
そうしてまったりしてしまったから、続く兄の話題に今度は私が盛大にむせる羽目になる。
兄は特大の爆弾を隠し持っていたのだ。
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