悪役令嬢は護衛を諭す
「どういうことですか!?」
その日、常日頃感情の揺れ幅の少ないダグラスが珍しく声を荒げて聞いてきた。
「何のことですの?」
学校も終わり、家で優雅にお茶をしていた私は小首をかしげる。
「お嬢さまの専属護衛が増えるという話ですよ」
「何か問題があって?」
「今までそんな話は全く無かったのになぜ突然?」
ダグラスの疑問に、私は持っていたカップをソーサーに戻した。
「今まで気づかなくて申し訳なかったと思っているの」
「何のことですか?」
「私の専属護衛がダグラス一人だったでしょう?お休みも取りづらかったでしょうし、デートとか、人付き合いもしづらかったのではなくて?」
私の返事にダグラスの眉間に皺が寄る。
「デートする相手もいなければ特に人付き合いもしていませんし、俺としては稼ぎたいので休みなんて不要なんですが」
マチルダは?
マチルダとはデートしないの?
思わず出そうになった質問を、私はすんでのところで呑み込んだ。
危なかった。
これを聞いちゃうとセクハラ親父と同じよー。
気をつけないと。
セクハラ、ダメ、絶対。
もちろん、ダグラスとマチルダがつき合っているのかどうか、気にならないと言ったら嘘になる。
それでも、考えてみればダグラスのプライベートなことまで聞く権利なんて私にはないのよね。
護衛の仕事に影響が出ない限り、私はダグラスの個人的なことに関われない。
気安く接していたとしても雇用関係なんだから。
「これはお父様が決めた決定事項よ。新しい専属護衛には明後日から入ってもらうわ。シフトをどうするかはこれから決めるけれど、何か希望はあるかしら?」
「…できるだけ多く出勤したいですね」
「そう、わかったわ。もう一人にも確認してその上で決めるわね」
そう言うと、私はダグラスに退室をうながした。
ダグラスも私と一緒にいたいと思ってくれているのかな?
ついついそんな期待を持ちたくなってしまうけれど、すぐに違うと心の中で否定する。
護衛対象が勝手にそんな気持ちを抱いているなんて知ったら、気持ち悪いに違いない。
それにしても両親がこんなに早く新しい護衛を雇ってくれるとは意外だった。
とはいえ、デュランのところに行く時はダグラスを連れて行った方がいいだろう。
なるべくあそこの存在を知っている人は少なくしたいし。
でもねぇ。
あそこにはマチルダがいるのよね。
私は複雑な思いでため息をつく。
芸術祭が終わってから、デュラン経由で雇った三人の中でマチルダだけ契約を解消している。
これは別にダグラスのことがあったからではない。
ノアは養護教諭として実際に採用されているからすぐに辞めることが難しいし、ジェシカは元々学園に通っているからあえて契約を解消する必要もなければ今後のことを考えても学園内の協力者が必要だったから。
さらにいえば、性格が合うのもある。
その点マチルダは侍女として潜入しているだけだったし、今のところ暗部仕込みの腕が必要となる事態は起こらなそうだからということで一旦契約解除となっていた。
もちろん必要があれば再契約もできる。
ただ、この状況でマチルダと再度契約をする機会がくるとは思えないけど。
二人が一緒のところを見たくないという私情だけでなく、ダグラスがその関係性を公表できない、秘密がある状態というのが危険だからだ。
信用できない人を雇うのは難しい。
その点ダグラスも今は信用を落としているけれど、今までのつきあいの分まだ様子見してもいいと思っている。
まったくもって嬉しくないけど、私はまだライアンの婚約者。
いろいろな思惑で狙われることはあるのだ。
エマだけ相手にしてればいいっていう訳でもないしね。
私は頭の中に政敵である狸親父たちの顔を思い浮かべてゲンナリする。
どうせならイケメンを愛でたいわよ。
そういえば、新しい専属護衛はこれまた見目麗しい男性だ。
レオと名乗った金髪碧眼の彼はおそらく家名を持つそれなりの貴族の出だろう。
レオというのも愛称とか略称だと思う。
まぁ、そこら辺は説明してもらえなかったけど。
ダグラスと並んで立たせると黒と白な感じね。
レオが信用できる護衛なのかどうかはこれから見ていくしかないけれど、私はもう期待するのは止めていた。
…過剰な期待は裏切られた時に胸を抉るから。
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