悪役令嬢は未来を語る
結論として、商会長はカフェのマスターのリックにお願いすることになった。
「では、商会長としてお仕事をしていただく分の基本賃金はこの額で、問題なければこちらにサインをお願いいたしますわ」
貴族令嬢である私は表に出ることができない。
今回銀行口座を作るために商会を設立したわけだけど、せっかくだからある程度お金が貯まったら事業も始めようかと思っている。
そうなると商会長には窓口になってもらったり実際の取り引きの場に出てもらうこともあるため、リックとは正式に契約を結ぶことになった。
「カフェのお仕事と兼務していただくことになるけれど、大丈夫かしら?」
「カフェの方は他の者に任すこともできますので問題ありません」
リックは茶色の髪の毛に茶色の瞳というこの辺りではよく見る見た目だ。
体つきは筋肉質で大きく、デュランよりもいくぶん背が高い。
これなら新参者の商会でも舐められることはないわね。
「しばらくの間は特に何もすることはないと思いますわ。余裕ができればいずれは子どもの教育や孤児院の待遇の改善、平民でも学校に通えるようにする方法を考えたいと思っていますの」
この間からその考えがずっと頭から離れなかった。
今の私は断罪されないようにすることで精一杯だけど、もし断罪を回避できたら、ゲームの物語以降も生きていくことができるのであれば、考えてもいいのではないかと思った。
前世の私が孤児院上がりでもちゃんと大学に行って就職できたように、この世界の子どもたちにも夢を見てもらいたい。
だからそう提案したのだけど、それを聞いたデュランもリックもミラまでもがポカンとしている。
あら?
何も変なことは言ってないわよね?
「エレナ嬢、そんなことを考えていたのか?」
「先日教会と孤児院へ慰問に行きましたけれど、あのままでは孤児の子は大人になっても良い暮らしはできませんわ。親が貧しければ自動的に子も貧しいままになってしまう。それでは希望が持てないでしょう?」
思い浮かぶのは無邪気な子どもたちの顔。
彼らはまだ孤児院の中の世界しか知らない。
そして他の世界を知ることなく、孤児院を出れば貧しく搾取される側になってしまう。
「社会には希望がないといけないと思いますの。それに、もしかすると彼らの中にも素晴らしい才能を持つ子がいるかもしれませんわよ?」
そこまで言って、でも…と私は言葉を続ける。
「今はまだ何の計画もありませんわ。順調に資金が貯まって初めて考え始めることができるのですもの。ですから、デュランには頑張って『王都だより』を多く販売していただかないといけませんわね」
そう。
私の考えはまだ絵に書いた餅のようなもの。
実現できるかどうかはこれからにかかっている。
「そういえば、エレナ嬢の慰問の記事を載せたあの号はかなりの売れ行きだ。しかもいつもなら平民が買うことの方が多いが今回は特に貴族が多く購入している」
あらあら。
ということは、エマがマナーのなっていない令嬢というのは貴族の中でかなり広まっているということね。
「エマ様は何か言ってきてますの?」
「ああ。記事の扱いに文句を言ってきたから、希望通りに掲載したのに何の問題があるんだと言って突っぱねたよ」
それはそうだろう。
エマの紙にあった内容は何も変えずにちゃんと載せてあるのだから。
「他にどんな記事を載せるかは指示されるいわれはないし、エマ嬢には口を出す権利もない」
そう。
文句をつけられるような隙は見せない。
「エレナ嬢はそこまで読んでいた、ということだろう?」
「ご想像におまかせしますわ」
デュランの言葉に私は笑って答えた。
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