悪役令嬢は画策する
「その代わりに、同じ紙面に載せて欲しい記事が二つありますの」
「載せて欲しい記事?」
私はジェシカに描いてもらった用紙を取り出してデュランに見せる。
「これは?」
「先日の舞踏会でエマ様が身につけていたドレスやアクセサリーを描いたものですわ」
舞踏会の日、エマはライアンの色のドレスとアクセサリーを身につけていた。
そしてそれらは王室御用達の店のものばかり。
「エマ様はこの記事で平民からの支持を得たいと思っているのでしょうけど、この絵を横に並べて掲載したら、記事を読んだみなさまはどう思われるかしら?」
平民の多くはほとんど見かけることもない高位貴族よりも身近にいる下位貴族の方に親しみを覚えるものだ。
だからエマがエレナに虐げられていると聞けば当然エマに同情する。
しかし、そのエマが王室御用達の店の物で全身を着飾っていたらどうだろう?
身近に感じる相手だからこそ、そこに複雑な思いを抱かないだろうか。
妬みや嫉みなんて案外簡単に持たれるものなのよね。
そして、『王都だより』はどちらかといえば平民向けではあるものの貴族の中でもそれなりに読まれている。
体面を重視する貴族はエマが王太子の色で全身を着飾っていることに対して不快感を覚えるはずだ。
なぜなら王太子にはすでにエレナという婚約者がいるのだから。
当たり前だが、人の婚約者の色のドレスを着てさらにはその相手のエスコートで舞踏会に参加するなんて非常識極まりない。
あの舞踏会は学園のイベントだから関係者以外は誰かに聞かない限りこのことを知らないし、多少噂になっていたとしてもまだまだ限定的な範囲に限られるだろう。
しかし『王都だより』に載せることによって多くの貴族の目に入る。
そしてエマにはマナーのなっていない令嬢のレッテルが貼られるのだ。
「ですので学園で行われた舞踏会でのエマ様の装いと、王太子殿下がエスコートしたことを一緒に載せていただきたいの」
「つまり、エマ嬢が平民の同情を引こうとするなら、エレナ嬢は平民の妬みと貴族からの軽蔑を引きだそうということか」
私は正解とでもいうようにニコリと微笑んだ。
「それにエマ様の依頼を理由もなしに断れば、発行元がこちらの味方であることがわかってしまうでしょう?それはあまり得策ではないと思いますの」
「なるほど。で、もう一つの掲載したい記事とは?」
デュランの問いに、私はもう一つの計画を打ち明ける。
「公爵令嬢エレナ・ウェルズが王都の教会と孤児院を慰問したという記事ですわ」
「どういうことだ?」
「私は明日教会とそこに付随する孤児院に伺おうと思っていますの。もちろん、寄付もしますわ。そのことを記事にして掲載していただきたいのです」
これは別にエマのことが無くてもするつもりでいたことだ。
私は別に博愛精神や他者への思いやりに溢れたタイプではないけれど、エレナは多くの物を持つ立場。
ノブレス・オブリージュというほどではないが、何かできないかとは思っていた。
だって孤児院での暮らしは楽じゃないだろうから。
前世の施設でのことを思い出しながら、それはきっとこちらの世界でも同じだろうと思った。
まぁ、それをエマとのことに利用しようとしているんだけどね。
多少の後ろめたさというか申し訳なさは感じるけど、慰問も寄付も、やって悪いことではないから。
そしてエマとのことに決着がついたとしてもその後も自分なりに何かできることを続けていきたいとは思っている。
…まぁ、公爵令嬢ではなくなってお金もなくてとなったら、できることなんて労働力の提供くらいだけどね。
「エマ様の私に対する記事の隣に、舞踏会の絵と私の慰問と寄付の記事が並んだら、多くの人にはどう受け取られるかしら?」
こちらからエマの記事は事実無根だと難癖つけるよりも、並んだ記事から読み手に判断してもらった方がいい。
「どういった受け取られ方をしてその結果どんな噂が流れるのか、推測しづらい部分もありますけれど、悪いようにはならないと思いますわ」
「…まぁよく思いつくもんだなぁ」
感心なのか呆れなのかわからない感想をもらしながらデュランは快諾する。
「いずれにせよ、記事に関しては任せてくれ」
「よろしくお願いしますわね」
こうして、私のギルド訪問は目的を達成したのだった。
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