悪役令嬢は絡まれる
ライアンとエマと遭遇する前にジェシカが合流した。
「予定通りマチルダさんは給仕係として潜入しています」
そっと耳打ちされた言葉に私は頷く。
マチルダは侍女としてもちゃんと仕事をこなせるが、それ以上に身体能力を生かすことが得意だった。
何かを投げたり、身一つで戦ったり、ナイフを使ったり。
つまり、彼女の得意領域は闇ギルドや暗部の仕事に必要とされる分野ということ。
本人はバレてないと思っているけれど、端々で出ちゃってるのよね…。
あれでなぜ気づかれないと思えるのだろう。
案外天然なんだろうか。
マチルダ天然疑惑を持ちながら、それでもその能力は私的にとてもウェルカムだったのでそのまま気づかないふりをしている。
今日の作戦の成功もマチルダの活躍にかかっているのだ。
「ああ、そろそろですね」
ジェシカはそう言うと、私とクレアの後ろに控えた。
と、同時に声がかかる。
「エレナ嬢、ここにいたのか」
ライアンに話しかけられて、私はゆっくりと振り向いた。
「ごきげんよう、ライアン様」
私の言葉に続いてクレアとジェシカもライアンに挨拶をする。
そして私を含めて3人とも、ライアンの横にいるエマには声をかけなかった。
いや、すごいわ。
エマを見ながら私は思う。
人目の多いこの場所で、正式な婚約者を前にしてその相手の腕に手をかけくっついていられるその性格が。
当然だが周りは私とライアンが婚約者同士だということを知っている。
この状況下でエマにそれを許すライアンも相当問題ではあるが、いっても彼は王太子。
誰も注意できなかったに違いない。
その点エマは男爵令嬢でしかないことを思うと周りを気にしない様がすごいとしか言いようがないのだ。
しかも。
先んじて聞いていた通り彼女のまとうドレスもアクセサリーもライアンの色。
喧嘩売ってるわー。
男爵令嬢が公爵令嬢に対してここまで舐めた真似をできるのね。
通常だったら考えられないことだけど、エマが転生者であればそこら辺の感覚がないのかもしれない。
あとはライアンがそれを許してしまっているのが一番の問題ね。
「ひどいですわ!あたしのことは無視するんですか?」
おおー。
最初から好戦的。
因縁をつける気満々なのが丸わかりだわ。
「エマ様、私常識のない方とはあまり親しくできないと思っていますの。エマ様は私とは相容れない常識をお持ちのようですので」
「なんですって!突然人を非常識呼ばわりするなんて、そっちの方が非常識でしょ!」
「ライアン様、エレナ様が言いがかりをつけてくるんです。あたしは何もしていないのに」
私に喚いたかと思うと、すぐにライアンに媚を売る。
変わり身の早いカメレオン?
それとも弱いほどよく吠える犬かしら?
キャンキャンうるさいわ。
「エレナ嬢、エマ嬢はまだ貴族社会に疎い面がある。そのことを考慮してあげてはどうだろうか?」
いや、馬鹿なの?
貴族社会に疎いのと非常識なのは違うでしょ。
ちゃんとした平民よりもひどいわ。
「ライアン様、彼女も男爵令嬢となったからには貴族社会について自ら学ぶ必要があります。いつまでも甘やかしているのはエマ様のためにはなりませんわ」
つまり、あなたの甘やかしはむしろ害だと言っているんだけど…伝わっていなさそうね。
「エレナ様はあたしのことが気に入らないだけでしょ!」
ライアンの腕にくっついたまま、エマは瞳を潤ませ言う。
はたから見たら私がエマをいじめているように見えるように。
「あたしがライアン様からドレスやアクセサリーをプレゼントされたから、エレナ様は嫉妬してそんな意地悪を言うんだわ!」
周りに聞こえるようにエマは声を張り上げる。
ざわめきが辺りに広がった。
エマはライアンからドレスやアクセサリーを贈られた。
それに嫉妬したエレナがエマをいじめている。
そういう筋書きにしたいのだろう。
ここで私がエマにジュースをかければゲーム通りの展開だ。
ただ、エマは気づいているのかしら?
今ジュースを持っているのはエマだけで、私は扇しか手にしていないということを。
だから。
私は手にしていた扇をパチンッと閉じる。
その音に周りの注目が私に集まった。
「誤解のないように言っておきますけれど……」
みんなの前で懇切丁寧に説明してあげるわ。
あなたの言う嫉妬がいかにあり得ないかを。
そしてみんなは理解するのよ。
あなたとライアンがいかに愚かなのかをね。
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