悪役令嬢は糾弾される
「では、その証言をしたというご令嬢にお話を伺えるかしら?」
私の言葉に舞台袖に控えていた女生徒が進み出てくる。
「あの、私が音楽室でエレナ様をお見かけしました。あれは発表会に出演予定のみなさまが各自で楽器を預けに来られた後です」
彼女はエマに何か弱みでも握られているのかしら?
どことなくビクビクした感じで話す姿は怯えたハムスターのようだわ。
「それは本当に私だったと言い切れますの?」
「もちろんです。エレナ様を見間違うなどありえません」
まあね。
エレナは公爵令嬢であるその身分でも、成績でも、容姿でも、そんじょそこらにいるようなモブと違って何もかもが極上なのだから。
「エレナ様、見苦しいわよ!こうしてあなたを見たって人がいるんだから、早くその罪を認めた方がいいんじゃないかしら?」
エマの勝ち誇ったような声が講堂内に響き渡った。
周りの生徒たちは突然始まった糾弾劇に、どうなるのかと固唾を呑んで見守っている。
「実は今日差出人不明の手紙が私の元に届いたのだけど…」
「何を全然関係の無い話を始めてるのよ!」
噛みついてくるエマを無視して私は続ける。
「そう。ちょうど音楽室にみなさまが楽器を持っていく少し前の時間でしたわ。どなたからのお手紙かわからなかったので私も不安でしたけれど、中を確認しないわけにもいかないかと思ってペーパーナイフを使おうと思いましたの」
そして、みんなに見えるように包帯の巻かれた左手を胸元まで上げる。
「お恥ずかしい話、ペーパーナイフの扱いを失敗してしまって左人差し指を怪我してしまったのですわ」
『だから何よ』とでもいうような表情のエマににっこりと微笑む。
ここにきてまだ何を言われるのかわからないなんて、鈍い子。
「当たり前ですけれどそのままにすることができませんでしたので保健室に行きましたの。その後はこちらに来るまでずっと保健室にいましたので、私が音楽室へ行くのは不可能ですわ」
私の言葉に講堂内がざわついた。
「は?」
エマの口から令嬢らしからぬ声が漏れる。
「そこのご令嬢がどなたを私と勘違いしたかはわかりませんけれど、そういうわけで私ではないことはたしかですわ。私は音楽室には行っていない、つまり、犯人ではありません」
「嘘よ!言うだけなら何とでも言えるもの」
エマが喚いた。
「逆にお伺いしたいのだけど、なぜ私が犯人と決めつけるのかしら?」
エマがグッと言葉に詰まるのを見ながらさらに続ける。
「お疑いになるのなら保健室のノア先生に確認されてはいかが?」
私の言葉を機にノアが舞台に上がってきた。
「なにやらご指名をいただいたようなので上がりましたが…たしかにエレナ嬢は左手を怪我されて保健室にいらっしゃいました。以降こちらに来るまで保健室からは出ていません。そのことに関しては嘘ではないと私が保証しましょう」
「いいえ、いいえ、エレナ様は公爵令嬢。ノア先生と口裏を合わせているのかもしれませんわ。先生だけの証言では信用できません!」
いやいや、あなただってそこのご令嬢一人の証言で私を糾弾しているでしょうが。
矛盾していることに気づかないなんて、頭が悪いの?
でもいいわ。
それならさらに追い詰めるだけだものね。
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