悪役令嬢は報告を受ける
諜報員というのは伊達じゃないのね。
しみじみとそう感じたのは、マチルダが私の依頼の答えをそう時間もたたずに持って帰ってきてくれたからだ。
「おそらくエレナ様を手紙で音楽室に呼び出すつもりかと思います」
内容としてはこうだ。
エマが他クラスの男爵令嬢に接触した。
どうやらその相手が私宛に手紙を出して当日音楽室に呼び出す予定らしい。
それを別のご令嬢に目撃させる。
その後バイオリンの弦が切られているのが発覚。
私を目撃した令嬢が告発する。
単純といえば単純なシナリオだけど、こういったことは変に複雑にしない方が成功しやすい。
「報告をありがとう。引き続きエマ様の周辺を探り、何かあれば再度報告をお願いしますわ」
「かしこまりました」
マチルダが退室したのを見届けて、私は改めてノートに向き合う。
放課後の空き教室は人気が無い。
ましてや今は芸術祭に向けての準備中。
多くの生徒はそれぞれに割り振られた仕事をしているので私の動向を気にするような者もいなかった。
それをいいことに空き教室を使って報告を受けていたのだが。
さすがの私もいくら学園内とはいえ人気のない場所にいくからにはダグラスをそばに控えさせている。
ダグラスとマチルダはデュランに紹介された以降も私が見る限り個別で会話をすることはない。
本当、あの時の二人の反応は一体何だったのか。
そのことが気になりつつも、まずはエマ対策ということでノートに書き出した対処方法を眺めた。
行儀が悪いとは思いつつ、机を人差し指でトントンとリズミカルに叩く。
前世で考え事をする時の癖が出ていた。
「その癖、8ヶ月くらい前まではなかったですよね」
不意にダグラスに問いかけられて、リズムを刻んでいた指がぴたりと止まる。
「そうだったかしら?」
「そうですよ。そういえば、その頃からお嬢さまの雰囲気や性格が変わったと思うのですが、何か心境の変化でも?」
ダグラス、あなたが興味があるのはお金だけだったでしょー!
なぜいきなりそんなことを言い出すのよ。
「別に心境の変化なんてなくてよ。私もこう見えてお年頃ですの。雰囲気や性格が変わることもあるのではなくて?」
「人形から急に珍獣になるのは相当珍しいと思いますが?」
…ダグラスくん、雇い主に対して珍獣はないでしょ。
しかも人形から珍獣ですか。
人形…以前のエレナってそんな風だったの?
「ダグラスがそんなに女性に詳しいとは知りませんでしたわ。よほど多くの女性を知っているのね。私みたいに大きく変化する令嬢もいると思うのだけど?」
例えば、エマとかね。
まぁ、あれは年頃で性格が変わったわけではなく私と同様別人になったからだけど。
「私はエレナ・ウェルズ。それ以外の何者でもないでしょう?」
「たしかにそうですが…」
ダグラスは珍しくも歯切れ悪く答えながら、それでも納得がいかないような表情を浮かべている。
どうしたのかしらねダグラスは。
以前はそんなにエレナに興味はなかったはずなのに。
やっぱり、エレナの性格が急に変わったせいかしら。
でも私は私以外にはなれないからなぁ。
申し訳ないけれど、こればっかりは押し通させてもらうわ。
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