悪役令嬢は気にする
「で、最後は侍女として潜入するマチルダだ」
学園では侍女を連れて歩くことはできないけれど、必要に応じて学園内に待機させることは認められている。
侍女役の彼女には必要に応じて情報を探ってもらうことが可能らしい。
貴族によっては侍女に対して注意すら払わない者もいるから、案外目立たずにいろいろなところに紛れ込めるだろう。
あとは他の貴族の侍女からの情報収集も有効かもしれない。
侍女、ね。
身のこなしに隙が無さすぎるような気がするのだけど。
「侍女のお仕事は初めてですの?」
私の言葉に、彼女が微かに反応した。
やっぱりね。
ずっと侍女の仕事をしていた人ではない感じがしたのだ。
「お気づきになられるとは思いませんでした」
「言いたくないことは言わなくても問題ありませんわ。依頼を確実に遂行していただければこちらとしては何も問いません」
なぜ驚いたような顔をするのかしら。
まぁ、就職とかであれば前職やら学歴やらを確認するのは当たり前かもしれないけど。
今回みたいな裏の仕事であれば、言いたくないことの一つや二つある人の方が多いんじゃない?
「お察しの通り正式に侍女の仕事をするのは初めてですが、依頼を受けたからには問題なくやり遂げてみせます」
「よろしくお願いしますわね」
そこまで話したところで、一時的に離席していたダグラスが戻ってきた。
ダグラスは私の専属護衛ではあるが必要に応じてウェルズ家の仕事を頼まれることもある。
今回は父親から何か頼まれていたのか、私がデュランのところにいる間にその仕事を済ませてきたらしい。
護衛であるダグラスがその護衛対象である私から離れられるあたり、ダグラスの中でデュランは信用できる相手と認識されているということだろう。
「ただいま戻りました。お嬢さまの用事は済みましたでしょうか?」
そう言って部屋に入ってきたダグラスはすぐにサッと室内を見回す。
どんな場所であれ、まず状況把握をするのは護衛としての習性だろうか。
そしてマチルダを見たところで微かに表情を変えた。
見落とすくらい小さな変化に、しかし私は気づいてしまう。
ん?
ダグラスとマチルダって知り合いなの?
とっさにマチルダを見ると、彼女もまた表情が固まっている。
元々無表情気味だから分かりにくいけれど。
どういうこと?
残念ながらダグラスの経歴を私は詳しく知らない。
ゲームではダグラスの攻略ができないままだったし、こちらの世界にきてからも過去のことを詮索したことはないからだ。
どういった関係なのか気になる。
ものすごく気になる。
しかし違和感を覚えたのもつかの間、二人は全然見知らぬ者同士のような態度だ。
ダグラスはノアとジェシカに続いてマチルダとも初対面の者同士として挨拶を交わしている。
なぜだろう。
私はモヤモヤとした気持ちを打ち消すことができなかった。
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