悪役令嬢は演じる
「ごめんなさい。エマ様がそんなに不快に思われるとは思いませんでしたわ」
胸の前で両手を握り、俯き加減でいかにも悲しそうに私は言った。
「え…いや…」
目論みが外れたせいか、取り繕っている化けの皮が少し剥がれてエマの顔に焦りが見える。
「エマ様、気に入らないことがあったとしても突き飛ばすのはどうかと思いましてよ」
クレアが私を庇うように前に立ち、抗議の声を上げた。
「それに、今の状況で注意を受けるのはライアン様たちと申しましたでしょう?エレナ様はみなさまのためを思ってご忠告されたのに、ひどいですわ」
いつも大人しいソフィもクレアに並んで私を庇ってくれる。
二人ともありがとう!
そしてごめんね。
わざと自分で転んだのよ。
心の中で二人への感謝と謝罪をしていると、エマの向こう側からも声が上がった。
「そうだな。さすがに今のは無いな」
オーウェンが席を立ちながら言う。
「暴力的な行為は好きではありません」
ベイリーも同じく席を立った。
「みなさま、そんなにエマ様を責めないで。きっとわざとではないでしょうし、規則のことも理解していただけたと思いますわ」
私はエマを庇う発言をしながら同時に周りの様子を確認する。
前回の武術大会では公衆の面前でエマにしてやられたが、今回は同じような状況を逆手に取ることができたようだ。
それほど大きな声で話しているわけではなくても、図書館内ということもあり辺りが静かなため私たちのやりとりはわりと広範囲に聞こえただろう。
王太子であるライアンが絡んでいることもあって周りの生徒の意識がこちらに集中している様が想像できる。
「お騒がせしたかったわけではありませんので、私たちは失礼させていただきますね」
まずはライアンたちに向かってそう言って、
「みなさまの邪魔をしてしまったこと、謝罪いたします」
そつなく周りの生徒たちにも謝っておく。
目撃者の証言って大事なのよね。
これで私が特別何か言わなくても、今日のことは面白おかしく噂されるだろう。
私がクレアとソフィを促してその場を去ろうとすると、オーウェンとベイリーも一緒についてきた。
「お二人はライアン様たちとご一緒されなくてよろしいのかしら?」
「今日はお開きだ」
「どちらにしろエマ嬢がいては勉強できないし、僕も今日は帰ることにするよ」
オーウェンもベイリーもエマに未練はないように見える。
それにしても、二人とも規則のことは知らなかったみたいだし、最初はエマを含めて四人で勉強していたし、王太子の側近としてはまだまだね。
「それでしたら婚約者同士で帰宅してはいかが?」
私がそう言うと、それぞれの婚約者同士で一瞬見つめ合い、そして同時に顔を赤らめるという姿を目撃してしまった。
甘酸っぱいわね。
なんだかむず痒くもなってきたわ。
馬に蹴られる前に退散しよーっと。
そういえば、ライアンは結局どうしたのかしら。
あのままエマと二人で勉強するようなことがあれば、噂に拍車をかけた上にもし教師に見つかれば四人で勉強していた時よりもまずいことになるし、さすがに今日は解散したと思うけど…。
ま、いっか。
私がわざわざ心配する必要もないわね。
ある意味清々しい気持ちで私は図書館を後にした。
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