悪役令嬢は動揺する
みなさんご存知だろうか。
本当に不意に転んだ時は、たいてい性別関係なく「うわ!」とか「うお!」とかいう声が上がることを。
まぁ、私的統計ではだけど。
つまり、可愛らしい女性でよくある「きゃあ!」なんて悲鳴はたいていわざとに違いないということだ。
ええ、偏見です。
本当のエレナだったら、もしかすると衝撃を予想して体を固くし、黙ったまま悲鳴も上げずに転ぶかもしれない。
私の中のエレナはそんな風に我慢強いというか、我慢を強いられすぎてそれが当たり前になってしまった子の印象がある。
…とつらつらと考えてしまったのはなぜかおわかりか。
私は今とても大きな衝撃の中にいる。
体は痛くない。
むしろほど良い弾力のある温かいものに包まれている。
なんならちょっと居心地がいいくらいだ。
「お嬢さま、大丈夫ですか?」
耳元で喋るのをやめんかーい!
しかもダグラス、無駄にイケボ!!
そりゃあ乙女ゲームの攻略対象だもの、人気の声優さんを起用していることはわかっている。
その上好みの声よ!
「ええ。大丈夫ですわ」
何事もなかったかのように答えて私は急いでダグラスの腕の中から体を起こした。
なんのことはない、護衛が護衛としての仕事をしたまでのこと。
までのこと。
…なんだけどー!!
ここで告白しよう。
ベイリーのことを女性への免疫がなく転がしやすいとこき下ろしておいて何だが、私だって彼に負けず劣らず男性に免疫のないいわゆる喪女なのだ。
だって考えてもみてくれたまえ。
前世では生きるのに精一杯で恋愛に費やせる時間なんてなかったのだから。
そして本来のエレナはエレナで、幼少期に王太子と婚約を結んでいるので男性どころか男子との交流も本当に少なかったのだ。
つまり、この体は本当に、全くの、家族との交流が少なかったから手すらほとんど繋いだことのない、まっさらな体なのだ!!
心の中で鼻息荒く宣言し、私は実際の拳を握り込んだ。
もちろん誰にも見られないように体の陰でだけど。
私を受け止めたダグラスの体にはしっかりとした筋肉がついていて、とんでもない安心感があった。
いつ鍛錬しているのかはわからないが、かなり鍛えられていることは間違いない。
おのれダグラスめ。
けしからん体をしよってからに。
…もはやただの言いがかりだ。
しかしなんだ?
まさか私は鍛えられた体であれば誰にでもときめくのか?
自分への不信感を抱く。
支離滅裂の思考に支配されながらも、私は何とか気持ちを立て直して、そして即座にとても悲しげな顔と雰囲気を醸し出した。
本当は泣きまねをしてしまえばいいとわかっている。
でも、できなかった。
元々前世でも人前で泣くのはものすごく嫌いだったし。
泣くことを武器にしたり、泣くことで自分の思い通りにことを進めたりすることに嫌悪感を感じるのだ。
それはきっと本来のエレナも同じ。
だって、ずっと歯を食いしばって頑張ってきたんだもの。
でも必要であれば演技はするよ。
楽しそうな演技も悲しそうな演技も。
それで人間関係が上手くいくのであれば、演技に込めるのが嘘の感情でない限り、大袈裟に表現することが悪いとは思わない。
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